Episode 3 デリバリー始めました
地獄絵図のその後で
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苦悶の声を上げているにも関わらず、彼等に与える薬がなかった。
そんな彼の耳に、さらに患者を運び込む慌しい足音が響き渡る。
「先生、次の患者が……!」
「わかってる!!」
駆けつけてきた救護班の兵士に強い口調でそう答えると、彼は自らの頭に手をやり、かぶっていた碗状のものをそっと取り外した。
そしてその骨のような色をした碗状のモノに水を注ぎ、いくつかの乾燥した薬草を入れてから祈るように捧げもつ。
すると、たちまち碗の中の水がネットリとした黄緑色の液体に変わった。
むろん、彼の持つ理力の効果である。
「出来たぞ」
その液状の物質を彼は漏斗で丁寧に瓶に詰めなおすと、傍らに控えていた助手にそっと手渡した。
「はい!」
助手の役目を持つ兵士は、その黄緑色の液体の入った瓶を手にすると、火傷を負った兵士の患部に少しずつ垂らして行く。
すると、いかなる効果か、欠け落ちた肉がみるみる再生し、炭化した皮膚がいくつもポロリと剥がれ落ちた。
その下からは真新しい肌がのぞく。
痛みが引いたのか、兵士の表情もかなり和らいでいるようだ。
だが、完全ではない。
命の危険がなくなっただけで、痛みが治まったわけではないのだ。
もっと大量に投薬すれば完治できないわけでもないが……それをすると全ての患者に薬がゆきわたらなくなってしまうのである。
「いつもながら、すごい効き目だな……河童の妙薬というやつは」
ちょうど最後の患者の治療を始めた頃になって、この医務室を砦の指揮官が訪れた。
「褒めても何も出せんぞ、ドミトリー・コシュチェイ・ボイツェフ中隊長。 さすがに全員を完治させるだけの薬を作り出すのは無理だ。 その前に気絶する」
そう、お気づきの方もいるだろうが、この治療担当官の種族は河童。
その名をソウテツ・カワタロウ・シバテン。
彼の同族の間では"斯波天 宗哲"と書かれる。
そして先ほど頭から取り外したのは、彼にとって命といっても良い重要器官である"皿"だ。
他の特性のインパクトが強すぎるせいであまり知られていないかもしれないが、河童は古来より傷や火傷によく効く薬を持っていることで知られる。
そんな彼の持つ理力は"製薬"。
水やいくつかの薬草を媒介に、自らの望む効果をもつ薬品を作り出す能力だ。
その力ゆえに、彼はこの砦の治癒を一手に引き受けている。
「で? 勇者とやらはどうした? 先ほどより火の手が弱いようだが」
ちらりと目をやれば、西の空は元の藍色の闇を取り戻しつつある。
だが、勇者を撃退できたとはとても思えない。
この砦の戦力では、せいぜい足止めをするのが精一杯である。
「十分な収穫があったらしく、手近にあった死体をかき集めて人間界に撤退をはじめた
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