第二十四話 難波その十二
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「食いだおれでいこうな」
「じゃあこの善哉も」
ここで夫婦善哉の話に戻った。
「食べてね」
「そうしような」
五人は手を合わせていただきますをした、そうしてその二つずつある善哉を食べた。そのうえでこう言ったのである。
「これもまた」
「適度な甘さで」
「美味しい」
「優しい甘さよね」
「だよな、善哉のさ」
美優はその善哉を食べつつ言う。
「いい甘さだよな」
「そうでしょ。この善哉をね」
里香がまた美優達に話す。
「夫婦善哉の最後で主人公の二人が食べるのよ」
「そのだらしない旦那としっかり者の奥さんがだよな」
「そうなの」
これが夫婦善哉のラストシーンだ、不意に戻ってきた柳吉が蝶子をこの店に誘ってのことだ。
「病気になってから暫く姿をくらましていた旦那さんがひょっこり戻ってきてそのうえで奥さんをこのお店に誘ってね」
「それでここで食べるんだな」
「そうなの」
それがそのラストシーンなのだ。
「流れ流れて落ち着くって形でね」
「放浪か?」
「そう、居場所は大阪で変わりないけれど」
放浪と言っても色々だ、この二人の放浪はというと。
「家を追い出されて商うお店を転々と変えてね」
「そういう感じの放浪もあるんだな」
「織田作之助の小説って主人公は放浪するの」
この作家の作風の大きな特徴である。このことには織田作之助の人生経験が大きく影響していると言われている。
「そうして最後の最後に」
「落ち着くんだな」
「夫婦善哉ではここに来てね」
それでだというのだ。
「二人で落ち着いたところで終わるの」
「成程な」
「この善哉を食べてね」
「あたし達は特にな」
「放浪してないわよね」
「全然な」
それはなかった、それも全く。
「というか居場所あるよな」
「学校でお家で」
琴乃もその善哉を食べている、一つの椀を手に取って。
「それで部活でね」
「プラネッツでね」
彩夏はにこりとして琴乃に返した。
「居場所があるわよね」
「そうよね」
「居場所あるっていいことよね」
「若し居場所がなかったら」
ふとこうも言った琴乃だった。
「どうなっていたかしら、私達」
「探してたんじゃないの?」
その琴乃に景子が言う。
「その時はね」
「居場所探してたの」
「人ってずっと放浪するものじゃないと思うから」
「それでよね」
「居場所がなければ探して」
「そこに落ち着いて」
「そうなっていたと思うわ」
景子はこう琴乃に話す、勿論彼女も善哉を食べている。優しい温かい善哉の甘さと団子の歯ざわりが口の中を支配している。
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