第三十話 誘引
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方ほどの部屋だ。正面にもう一つドアが有った、左右の壁にもドアが一つずつある。
案内役の士官が正面のドアに近付いて行く。リンツ、ブルームハルトに視線を向けると微かに頷いてきた。ここからが勝負、そう思った時だった。ドアの開く音と足音がした。驚いて音の方向に視線を向けると両脇のドアから帝国兵が溢れだしている! 不審を持たれたか?
案内役の士官に目を向けるとその男は一瞬の隙にドアを開け中に入っていった。如何する? 迷うな、進め! ここに留まるのは危険だ。
「リンツ、ブルームハルト、続け」
「はい」
先に入った士官の後を追って中に入った……。
帝国暦487年 7月 14日 イゼルローン要塞 イゼルローン方面軍司令部 ヘルマン・フォン・リューネブルク
シェーンコップ達が部屋に飛び込んできた。おそらく両脇のドアから帝国兵が現れたので慌てて俺が待ち受けるこちらの部屋に入ってきたのだろう。これで彼らは前後を塞がれた形になった。この部屋には四十名、そして向こうの部屋にも四十名の帝国兵が居る。
「こ、これは」
「久しぶりだな、シェーンコップ」
「貴様、リューネブルク! 何故ここに……」
愕然とした表情を浮かべるシェーンコップが可笑しかった、笑いが止まらない。
「貴様がここに来るだろうと予測した人が居てな、俺が迎えに来たのだ。嬉しいだろう? いや懐かしい、かな?」
「……」
シェーンコップが唇を噛み締めている。
「見ての通りこっちはブラスターとクロスボウを用意している、ゼッフル粒子は使えん。大人しく降伏しろ」
「……」
「無駄死にしろと教えた覚えは無いぞ、シェーンコップ。指揮官としての務めを果たせ」
おかしいな、どういうわけか懇願する様な口調になっている。その事に気付いて思わず苦笑が漏れた。シェーンコップも気付いたのだろう、奴も苦笑を浮かべている。
「分かった、降伏する。だが一つだけ頼みが有る」
「言ってみろ」
「残された連中の事だ。貴様なら分かるだろう、……いや、俺達を捨てた貴様には分からんか……」
嫌味かと思ったがそうではなかった。シェーンコップはこの男には珍しく沈鬱な表情をしている。残された部下達が肩身が狭い思いをするのではないかと心配している……、俺が亡命した時、余程に嫌な思いをしたのだろう。亡命した事を後悔はしていない、だからこそ胸が痛んだ。
「反乱軍には俺の方から連絡を入れよう。お前達が裏切ったのではなく俺に正体を見破られたのだとな、それで良いか」
「それで良い、裏切り者よりは正体を見破られた間抜けの方がましだ」
シェーンコップが自嘲を浮かべた。酷い例えだ、捕虜になって落ち込んでいるのだろう、少し力付けてやるか。
「それと貴様達の処遇だが安心して良いぞ。
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