第三十話 誘引
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をしかねないところだ、方面軍司令部の成果有り、そんなところだな」
グライフス司令官とメルカッツ副司令官の遣り取りに皆が顔を見合わせて苦笑を浮かべた。もっとも一人だけは相変わらずの無表情だ。
「とりあえずオーディン、それからミューゼル提督に連絡を入れよう。上手く届けば良いんだが……。それと駐留艦隊は何時でも出撃できるように準備を整えてくれ、頼む」
グライフス司令官の言葉に皆が頷いた。これでとりあえずは終わりかなと思った時だった、シュターデン参謀長が疑義を呈した。
「ミューゼル提督が増援軍の総司令官とのことですが大丈夫ですかな、まだ若いし大部隊を指揮した経験も少ないと思うのですが……」
司令部の要員が皆顔を見合わせている。無理もない、ラインハルト・フォン・ミューゼルはまだ二十歳にもならない大将なのだ。司令部の要員に不安を持つなというのは難しいだろう。
「心配はいらんでしょう。以前ブラウンシュバイク公がミューゼル提督を天才だと評しているのを聞いたことがあります。小官も一度実戦を共にしたことが有りますが極めて有能な人物だと思いました」
「……」
シュターデン中将は不満そうだ。理由は分かっている、おそらくは嫉妬だろう。自分よりも若い人間が自分より上位にいる、そのことが面白くないのだ。ミューゼル提督への嫉妬、そして公への嫉妬。前回のイゼルローン要塞攻防戦でも二人に対してかなり感情的に当たっている。
公がブラウンシュバイク公爵家の養子になったため公に対しては反感を向けることが出来ない、その分ミューゼル提督に対して敵意を示すのだろう。不思議なのはブラウンシュバイク公がそんな彼を閑職に回すでもなくイゼルローン方面軍司令部に参謀長として押し込んだことだ。オーベルシュタインといい、シュターデンといい公も妙な事をする。
「参謀長はブラウンシュバイク公とミューゼル提督が個人的に親しいのでそれでと思っておられるのでしょうが公が情実や縁故で人事を行ったことが有るとは小官は寡聞にして聞いたことがありません。心配はいらんでしょう」
俺の言葉にグライフス司令官が頷いた。
「リューネブルク中将の言うとおりだ。第一、そんなつまらぬ人物ならこの司令部を作ろうなどとは考えるまい。ミューゼル提督を信用しよう」
グライフス司令官の言葉にシュターデン中将が“失礼しました”と答えた。やれやれだな。どんな組織でも人間がいる以上軋轢は生じるか……。早く反乱軍に来てもらいたいものだ、詰まらない感情など反乱軍が吹き飛ばしてくれるだろう……。
宇宙暦796年 7月 14日 自由惑星同盟軍総旗艦 アエネアース ヤン・ウェンリー
同盟軍総旗艦アエネアースの艦橋は沈鬱な空気に満ちていた。
「帝国軍は出てこないな。やはり方面軍司令部の所為
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