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ドン=カルロ
第三幕その一
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けれど」
 そう言って金貨を数枚手渡した。
「この手紙を殿下に」
 そう言って懐から取り出した一枚の手紙を彼女に手渡した。
「わかりました」
 彼女はそう言うとその場を後にした。
「これでよし」
 公女はそれを見届けると満足気に笑った。
「これで殿下は私のものに」
 彼女は夜空を見上げながら呟いた。
「あの繊細な殿下の御心は私のものに。暗闇の優しいヴェールに殿下をお包みして恋に酔わせて差し上げるとしましょう」
 そう言うとその場を後にした。そして皆準備を終えその場を後にした。
 その庭園の外れである。もう誰もいない。公女はそこに一人で隠れるようにしてやって来た。
「誰もいないわね」
 辺りを見回す。確かに誰もいない。
 その場にやって来た。そして遠くから誰かが来るのを見た。
「あれは」
 陰に身を隠した。覗き見るとどうやら若い男のようだ。
「来たわね」
 彼女は微笑むとその場にそっと現われた。わざと闇の中に影だけ見えるようにして。
「月桂樹の下にある泉のほとりか」
 彼は庭園の中を見回しながら呟いている。
「ここだな」
 来たのはカルロである。彼は不安げな様子で辺りを見回している。
「まさか彼女の方から私を呼んでくれるとは」
 嬉しそうである。だがそれ以上に不安なようだ。
「この前まであれ程頑なだったというのに」
「まあ、殿下も私のことを」
 彼女はそこで仮面を取り出した。
「恋は時にはこうした道具も使うもの」
 そしてそれで顔を隠した。そこでカルロが声をかけてきた。
「愛しい人よ、そこにおられたのですね」
 彼女の後ろ姿を認めて喜びの声をあげた。
「よくぞ呼んで下さいました」
「そんな、思ったより積極的なのね」
 公女はカルロの言葉に頬を赤らめさせた。
「まさか貴女の方から手紙をよこして下さるとは」
「殿下ったら・・・・・・。それなら早く仰って下さればいいのに」
 彼女は胸に手を当てて顔を少し斜め下に向けて言った。
「奥手なのかしら。それにしては情熱的だこと」
「これで私も本当の気持ちが言えます」
「えっ、いきなりそんな・・・・・・」
 公女はもう信じられなかった。胸の鼓動が身体全体から聴こえるようであった。

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