第二幕その九
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問官だ。バチカンが作り出した最も忌まわしいものであろう。魔女狩り、欧州をそのドス黒い炎で覆った邪悪な悪行だ。
これもまた旧教と新教の対立の中で激化していった。皆悪魔を恐れていた。悪魔は魂を奪い地獄に導くと。だが彼等は気付いてはいなかった。人の心に地獄があり悪魔もまた人の心に棲むのだと。
欧州の空は魔女と断定された哀れな女達を焼く炎と煙で赤と黒に染められた。青い空はその中に消えていった。自白、密告、陰謀、嫉妬、憎悪・・・・・・。人々の心から神は消え悪魔が棲んだ。否、それは悪魔であったのだろうか。悪魔とは何ぞや、と言われると神の反逆者である。元々は異教の神であったり天使であったのだ。失楽園等に見られる彼等は悪であろうか。彼等もまた正義なのではなかろうか。正義とは一つではないのだ。
人の心には光も闇もある。ここに出て来たのは闇であった。それは悪魔よりも邪悪なものであった。
血生臭い拷問に処刑・・・・・・。そこには人の光はなかった。ただ闇があった。その中で多くの者達が苦悶のうちにその命をすり潰されていった。まるで物のように。ドイツでもスペインでもイングランドでも。このスペインでも王の言葉通りドイツ程ではないが彼等がいたのだ。
「あの者達の後ろにはバチカンがいる。わしとてそうそう手出しができるものではない」
「はい・・・・・・」
「侯爵よ、立つがいい。卿に跪くのは似合わぬ」
「勿体無き御言葉」
彼は王に促され立ち上がった。
「卿は怖れぬな。だが怖れを知っている」
意味深い言葉であった。
「だがそんな卿だからこそわしは気に入ったのだ」
彼は言葉を続ける。
「わしの家族を見てどう思う」
「それは・・・・・・」
これにはさしものロドリーゴも言葉を詰まらせた。
「わしはあまり家族の愛を知らぬ」
彼は幼い頃に母と死に別れている。そして一度目の結婚は妃に先立たれ二度目の結婚はあのメアリー一世であった。狂信的な旧教徒である彼女を彼はどうしても愛せなかった。そして彼女は子供が産めなかった。やがて彼はスペインに戻った。それから程なくして彼女もこの世を去った。
「今はエリザベッタがいるが」
「大変聡明でお美しいお方ではないですか」
「だが幸福とはそれで訪れるものなのか?」
「それは・・・・・・」
やはり彼は答えられなかった。幸福なぞというものは自分以外の誰にもわかりようがないものなのだから。
「わしは気になって仕方がないのだ」
王の顔は暗さを増していく。
「何がでしょうか?」
ロドリーゴはようやく尋ねることが出来た。
「妃と息子のことだ」
「殿下が!?」
「そうだ。まさかとは思うが」
王の顔は一言一言ごとに暗さを増していく。
「取り越し苦労であれば良いが。だが疑惑は晴れぬのだ。いや、一刻ごとに増して
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