参ノ巻
文櫃
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にっこり笑った。そして背けたあたしの顔のすぐ横に、亦柾の両手がそっと囲うように着かれた。あたしは開かないかと一縷の望みをかけて板戸を押したけど、やっぱり開かない。
「あたし、その人じゃないと駄目だからっ!こ、こんなこと、知ったらあんたなんて斬られちゃうんだからね!強いんだからね!」
「姫・・・そんな男など・・・忘れさせて、差し上げます」
亦柾の指が、あたしの頬に触れた。
や、やばい本当に本当にやばいかもしれない・・・。
最後まで諦めないと覚悟して、噛みついてやろうと口を開けたその時だった。
あたしが背にしていた板戸が、いきなり開いたのだ!
あたしは開いた拍子にがつんと頭を打ち、痛みでその場にしゃがみこんだ。
「高彬殿・・・!?」
亦柾の声で、あたしは驚いて顔を上げた。
肩で息をしながら、大きく戸を開けているのは、紛う事なき高彬その人だった。後ろには徳川家の家人達が転がってたり、戦々恐々と言った体でこちらを見ている。
「高彬っ!」
これほど高彬の姿を頼もしく思ったことはない。あたしは勢いで高彬に抱きついた。兎にも角にも密室から解放されたのだ。とりあえずの危機は過ぎたとあたしは安堵で腰が抜けるようだった。
「あんた、どうして・・・」
高彬はさっと視線をあたしの着物に走らせた。
「忠宗殿が置いていった証文を見た。忠宗殿なら、こうなるかもしれないと思ったけど・・・良かった、間に合って」
「え?でもあれ、櫃は・・・」
「緊急時だと判断して、壊させて貰った」
ええ?でもあれ、どうやって壊したんだろう・・・。
「・・・無礼なことをするね、佐々の高彬殿は」
不意に部屋の中から声がした。笑顔の亦柾が出てくるけれど、わ、笑ってないでしょ、あれ・・・。あたしは高彬にぎゅっとしがみついた。
「無礼なのは、そちらでしょう、亦柾殿」
「こうして無断で徳川家に侵入しておいて?それに先ほど、証文を見たとおっしゃいましたね。ではおわかりでしょう。あなたの出る幕ではない」
「いいえ。何故なら、私と前田の瑠螺蔚姫は幼き頃より将来を固く誓い合った身だからです」
ほえぇ!?なっ、なにを言うんだ高彬は!
幼き日に将来を誓い合ったなんて、全然、ちっとも、身に覚えがないぞ!
父上が高彬と交わした証文も、たかが一年前、祖父の代からある証文には及ぶべくもないだろうし・・・。
「ですから、
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