参ノ巻
文櫃
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ったのかもしれませんが、わざわざ証文を作り、判を押し、特別に作らせた櫃に入れて保管しておいたようです」
そうして、徳川と前田の正式な判が押された証文は、後世にまでしっかり受け継がれた。
姫を何歳で嫁がせるかは双方で相当揉めたらしい。
こっちとしては本当にどうでもいいことなのだけれど、十三でははやすぎるしかし十八では遅い・・・とのことで、姫が十五か十六に輿入れさせることが決まった。
「無責任よー!」
聞き終わった瞬間、あたしは叫んだ。
「側室なんて、イヤー!」
「側室?」
「え、側室じゃないの?」
「正室ですよ」
「でも、イヤー!」
そう思えば、全ての謎は解けてくる。
きっと、父上は、そんな何代も前に取り交わされた証文のことなんぞころりと忘れていたに違いない。
それをあたしが掘り出してきたもんだから、もう十六歳のあたしに時がないと焦って・・・焦って・・・え、なに?焦って、あたしを亦柾のいる部屋に閉じ込めて?え、っと、つまり・・・。
「私は螺蔚姫で光栄ですけれど」
ふとその声が思ったよりも近いところでするのに気づいて、あたしは仰天した。
亦柾が、なんと二足先の距離にいつの間にかいたのである!
「ち、近寄んないでよ!」
あたしは慌てて立ち上がったけれど、背を板戸に預けているのに気づいて、思わず舌打ちした。
「螺蔚姫は知らぬ事と思いますが、明日は祝言です」
「え?あ、ああ、そう。誰の・・・」
「私と、姫の」
「はあっ!?」
「私は、螺蔚姫がここにいらっしゃるのは、全て同意の上だと聞いていたのです。しかし、そのご様子。忠宗殿も酷なことを為さる。螺蔚姫には、御同情申し上げます」
「そ、そうでしょうそうでしょう。もっと同情してくれても良いのよ」
「ですが、婚姻など自分の意のままになる方が少ないこの戦の世。前田という家を背負って立つ螺蔚姫もわかっておられるでしょう。私達の意思など、そもそも問題ではないと」
「そっ、そんな、そん・・・」
亦柾が、一歩、あたしに近づいた。
「あ、あた、あたし、駄目だから!」
あたしは混乱して叫んだ。
「駄目とは?」
亦柾の声が優しく囁く。近い、近いったら!
「あたし、もう、将来を誓い合った人が・・・」
「無効ですね」
亦柾は断言するように
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