参ノ巻
文櫃
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くがわこういちろうやくまさ)です。お忘れですか」
「えっ、亦柾?」
あたしは男の口から想定外に知っている名前が飛び出してきて面食らった。
亦柾、っていえばあれよね。由良と縁談が持ち上がってあたしがぶちこわしにいった徳川家の嫡男よね。
「え、なんであんたがここにいるの?」
あたしは先刻よりも大分落ち着いて言った。
「・・・螺蔚姫は何もご存じないのですか?」
「うん。知らない」
亦柾は驚いたようだった。
それから笑い出した。
「ああ、それで・・・。わたしも急な話なのにすんなりいくなとは思っていたのですよ。あれだけ意固地だった螺蔚姫をどうやって説得したのかと。しかし・・・前田の忠宗殿はなかなかの・・・方ですね。実の娘を・・・いやいや」
「ちょっと、あんたひとりで納得していないであたしにも説明しなさいよ!」
「わかりました。立ち話も何ですから、こちらでお座り下さい」
亦柾が指したのは、なんと布団だった。
「いくわけないでしょ。そこで話しなさいよ」
「男として姫を立たせたままではいられませんよ」
「・・・」
あたしはその場にすとんと腰を下ろした。
「座ったわよ」
「直床で足を痛めるといけないのでこちらに」
亦柾は笑ったままそう促す。
あたしは目を据わらせるとずかずかと亦柾に近づき、やわらかそうな布団を一枚剥ぎ取ると、素早く板戸の前に戻り、それを敷いて座った。
亦柾はそんなあたしを見て、声を出して笑った。
「本当に螺蔚姫は楽しい方だ」
「お褒め頂き光栄デス。あとあたしは瑠螺蔚で螺蔚じゃないから」
「そうですね。螺蔚姫」
「だから・・・っ呼び方は今どうでも良いとして、話よ話。一体何がどうなってあたしはこんなところに閉じ込められなきゃなんないのよ!」
「そうですね、押し問答をするのも楽しいですが、螺蔚姫に嫌われては元も子もないですし」
そうして亦柾はことことと話し始めた。
事の起こりは、徳川政稜と前田忠実とかいう、あたしたちのおじいちゃんにあたる当時の徳川前田両家の当主だった。
今は疎遠だけれども、その時その二人はエラい仲が良くて、そのうえ良い競争相手でもあったらしい。
「そこで、二人は約束をしたらしいのです。前田家と徳川家で、二代の後、石高が高かった方から低かった方へ姫を嫁がせる、と。遊びの延長だ
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