第一幕その一
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帝マリア=テレジアの頃にもあった。
そして彼等の血筋は遺伝が非常に強かった。少なくとも片方の親ははっきりとわかる程であった。
鷲鼻で丸い瞳をし面長。そして唇は厚く下顎が出ている。これは後にロココの女王マリー=アントワネットにまで受け継がれる。恐るべき遺伝であった。
それはこの若者にも見られた。やはり瞳は丸く面長で鼻は高い。そして唇は厚く下顎が出ている。彼の名はドン=カルロ、スペイン王フェリペ二世の嫡子である。
彼の母はポルトガル王女マリア=マヌエラであった。彼女の母はフェリペ二世の父カール五世の妹であった。すなわち従兄妹同士の結婚であった。これは政略結婚の多い欧州ではよくあったことである。
だがこの母親は若くして亡くなった。次に父が結婚したのはイングランドの女王メアリー一世である。
彼女はまたの名を『ブラッディ=メアリー』という。我が国の言葉に直すと『血塗れのメアリー』となる。何とも物騒な通り名であるが実際に彼女は多くの者を殺した。宗教の名においてだ。
彼女は狂信的なカトリックの信者であった。そして新教徒と見ると片っ端から拷問にかけ火炙りにしたのである。遂には腹違いの妹エリザベス、後の処女王エリザベス一世までその手にかけようとした。
これを夫であるフェリペ二世は快く思わなかった。彼もまた熱心なカトリックの信者であったが国王としての分はわきまえていた。彼は度を過ぎた弾圧は好ましくないことをよくわかっていたのである。
この時代からフェリペ二世の評判は今一つ芳しくはなかった。
『ピレネーの南には魔物が棲む』
これは当然フェリペ二世のことを言っているのである。しかし実際の彼は確かに弾圧こそすれ度を過ぎたことは好まなかった。それどころかドイツにいる同門の者達の行き過ぎた惨たらしい所業に対し眉を顰めていた。
元々彼の本拠地であるスペインは圧倒的多数がカトリックの信者であった。カトリックの膝元であるイタリア諸国やフランスよりもその割合は多かった。
その為新教徒の存在はあまり気にならなかった。ネーデルランドは別にしてもだ。彼は植民地の統治もそれ程惨たらしくはなかった。少なくとも後年のイギリスやフランスの統治よりは遥かにましであった。といっても我が国のように学校を建てたりインフラを整備してその地の文化を教えようという発想はなかったが。これは植民地統治としては根本から間違っているがここでは多くは語らないことにしよう。
彼は少なくとも分別を知る統治者であった。その為緩めるべきところも締めるべきところもわきまえていた。そして国内の何事に関しても目を向け耳を傾けてきた。そうした人物であった。
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