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シモン=ボッカネグラ
第一幕その五
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第一幕その五

 その後シモンはある静かな部屋に入った。パオロも一緒である。
「ここなら誰もいないな」
 シモンは辺りを見回して言った。
「総督、お話とは何でしょうか」
 パオロは不思議そうな顔をして彼に尋ねた。
「うむ。そなたの結婚の事だが」
「はい」
 パオロの顔に期待の色が入った。パッと明るくなる。
「諦めるがいい。そなたにはもっと相応しい者がいる」
「えっ・・・・・・」
 パオロの顔が絶望に支配される。
「総督、それはどういう意味ですか!?」
「そのままだ。彼女との結婚は諦めよ」
「そんな、総督だって賛成してくれたではないですか」
 彼はなおも食い下がる。
「事情が変わったのだ。そなたも男ならずっぱりと諦めよ。良いな」
 シモンはそう言うとその場を後にした。
「クッ、一体どういう事だ」
 シモンはそれを見送ると歯軋りして呻いた。
「事情とはどういう事だ。そのそも総督が勧めてくれた事だというのに」
 彼は閉じられた扉を見る。怒りと憎しみが沸々と湧いてきた。
「大体総督になれたのも返り咲く事が出来たのも俺のおかげではないか。その恩義まで忘れるとは」
 彼にも自負がある。そしてそれはみるみる肥大化していった。
「クソッ、ならば俺にも考えがある」
 彼はその場を後にした。そしてピエトロのいる部屋に向かった。そして事情を話した。
「それは気の毒に」
 ピエトロは社交辞令的に言った。
「ああ、全くはらわたが煮えくり返る思いだ」
 彼は歯軋りしながら言った。
「それでどうするつもりだい?他に誰かいい女はいるのかい?それとも今から探すか?」
 彼はパオロに対して言った。
「探す?馬鹿を言わないでくれ」
 彼は顔を顰めて言った。
「ではどうするつもりだ?」
 ピエトロはそんな彼に対して言った。別に彼の様子がおかしいとは思っていない。
「諦めてやもめ暮らしを続けるか?」
 普通はそう考えるだろう。しかし今の彼は常軌を逸していた。
「俺がそんなたまか。かっさらってやるのさ」
 彼は顔に陰惨な陰を漂わせて言った。
「・・・・・・おい、何を馬鹿な事を言ってるんだ」
 彼はそれを聞いて驚いてそれを止めようとした。だが無駄だった。
「いや、やってやる。ここまできたら止められるか」
 パオロは顔を獣のようにして言った。
「夕方になるとあの娘は何時も一人で浜辺にいる。その時を見計らってさらうんだ。そして俺の家まで連れて行く」
「本当にやる気か!?」
 ピエトロはパオロの顔を見て言った。
「ああ。協力してくれるか」
 パオロは逆にピエトロの顔を見据えて問うた。
「・・・・・・・・・」
 ピエトロは彼の顔を見ながら考えた。彼との付き合いは長い。その間共に多くの事をやってきた。無論悪事
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