暁 〜小説投稿サイト〜
東方守勢録
第五話
[1/4]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
『全隊員に告ぐ。隊員1名の裏切りにより、捕虜が5名脱走した!全隊員は直ちに捕虜と裏切り者を対処せよ!』

「館内放送……」

(この声……たしかどっかで……)


聞き覚えのある館内放送の声に、俊司は少し不安になっていた。


『捕虜と裏切り者は現在武器保管室にいる! 直ちに急行せよ!』

「ばれてますね……」

「監視ルームは抑えたはずだったのに……まさかこんなに早く見つかるなんて……」

『裏切り者の名は上条由莉香。見つけ次第直ちに抹殺せよ! 』

「!?」


館内放送が、無残にも由莉香の抹殺命令を言い渡す。

抹殺命令は由莉香の心に深く突き刺さった。抹殺命令が下された場合、どれだけ仲がよかろうが、誰もが死に物狂いで殺しにかかってくる。命令を遂行したものは、特別待遇を受けることができるからだ。

自分の身を守るためには、彼らと戦わなければならない。だが、由莉香にとってここの兵士は知り合いなどではすまない。彼らに殺される・彼らを攻撃することは彼女にとって苦痛でしかなかった。


『捕虜の状態は問わない。生け捕り・殺害好きにしろ。とにかく、捕虜を逃がすことはゆるさん! 最悪の事態だけは避けろ! 繰り返す……』

「まずいな……由莉香、急ごう」

「……」

「……由莉香?」

「……」


俊司の問いかけに由莉香は何も答えようとはしない。それどころか、彼女の手足は誰が見ても震えているのがわかった。

俊司は彼女のことをよく知っている。昔から友人思いで、よい関係を築いていた。おそらく、この軍に入ってからもそれはかわらなかったのだろう。だが、その関係は今の抹殺命令で崩れ去ったに違いない。由莉香にとってはもしかしたら初めてなんだろうと、俊司は考えていた。

由莉香は震えながらも戦おうと考えはじめたのか、ゆっくりと自身のハンドガンに手をかける。

だが、俊司は何を思ったのか、その手をつかんだ。


「……俊司……君?」

「戦わなくていい」

「えっ……」

「戦わなくていいよ由莉香。道を教えてくれるだけでいい。無理して戦うことはないんだ」

「でも……」

「あそこから出してもらっただけでも十分だよ。あそこにくるまでつらい思いもしたろ? これ以上つらい思いをしなくてもいいよ」

「俊司君のいうとおりよ。戦闘は私たちがやるわ」

「私たちにとってはこの軍は敵でしかないが……君にとっては思い出のある場所なんだろう?なら、戦うことはないさ」

「皆さん……ありがとうございます」


由莉香はそういって深々と頭を下げた。


「さて、行きますか。もうすぐそこに兵士がいそうだし」

「待ち伏せされてそうね」

「私が先に行きま
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ