第百二十一話 四人の想いその四
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穴山は幸い自分が幸村の愛馬を曳いていることからすぐに彼に顔を向けて言った。
「殿、ここはです」
「馬に乗れというのじゃな」
「はい」
まさにそうするべきだというのだ。
「ここは」
「さもないと引けを取るか」
「それはあってはなりませぬ」
だからだというのだ。
「ここは馬にお乗り下さい」
「わかった、それではな」
幸村は穴山の考えを受けた、そうしてだった。
実際に馬に乗り前から来る慶次を見た、見れば幸村の馬もかなり大きい。
その為彼を前にしても遜色がなかった、今二人は向かい合った。
慶次は幸村の顔を見て屈託のない笑みでこう言ってきた。
「ほう、噂には聞いておったが」
「わしのことを知っておるか」
「真田幸村殿だな」
実際にこの名前を言う慶次だった。
「武田家の」
「服の色と家紋でわかったか」
「うむ、その六文銭でな」
武田家の証である赤い服には武田家の菱形の紋と真田家の六文銭の家紋もあった、慶次はその家紋を見て言うのだった。
「噂には聞いておったがそれがか」
「左様、我が真田家の家紋よ」
「地獄の沙汰も銭次第か」
「あの世には六文の銭を持って行く」
渡し守への銭だ。それを渡し守に渡すと閻魔へのとりなしもしてくれる、だから地獄の沙汰も銭次第というのである。
「当家代々の家紋だ」
「それが面白い、地獄の沙汰もそれで済ませる意気込みとはな」
「真田家は武勇だけではない、智勇の家でもある」
強さと智恵、それを併せ持っている家だというのだ。
「それでその家紋にしたのだ」
「成程な」
「それがしがすることは」
幸村は慶次に毅然として語る。
「地獄の沙汰よりも」
「智勇か」
「うむ、武だけでなく智でも御館様に戦いたい」
その心意気を見せての言葉だ。
「それがわしの願いだ」
「せこいことはせぬか」
「卑怯未練はわしの最も嫌うものだ」
生真面目な幸村らしい言葉だった。
「だからこそだ」
「成程な、地獄の沙汰は考えぬか」
「わしのやることは誰にも隠さぬ」
例え閻魔であってもだというのだ。
「それでだ」
「噂通りだのう。それで今思ったのだが」
「何だ?」
「時間はあるか」
慶次は楽しげに笑って幸村に問うた。
「酒か茶を飲まぬか」
「それで話をしたいというのだな」
「左様、どちらがよい」
「酒は昨日しこたま飲んだ」
それで朝の風呂でやっと抜いたところだ、頭が痛かったことを思えば今酒を飲むことは憚られた。それでこう慶次に答えたのである。
「茶にしたい」
「それじゃな」
「しかも都の茶は美味い」
茶を選んだ理由にはこれもあった。
「今飲むならそれにしたい」
「ではそうしようぞ」
慶次は幸村に応じながら十勇士達も見た、そのう
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