霧の森
三重城にて
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三重城SIDE
カズヤを送り出して彼が表門の出るのを応接室から確認したクスィー伯とエリザ姫。
束の間の沈黙を挟みエリザ姫が口を開いた。
「あれで良かったのですか?」
「なにがだ?」
「カズヤ様を行かせたことです。」
彼女は初めて出来た思い人を心配している。いろんな意味で。
「セリナとか言う娘と行かれることが不満か?」
「不満もなにも、たかが平民の娘にカズヤ様が似合うわけないです。」
「その事だがエリザ。」
深く椅子に座り直して斜め向かいに座る愛娘を見る。
「あの少年も平民だ。貴族のお前に似合うわけがない。」
「そんなこと…。」
「お前には婚約者もいるのに勝手にされては困る。」
「婚約者、ですって?」
彼女はここで聞き慣れない言葉を耳にした。そして自分は婚約した覚えなどなかった。
「そうだ。相手は東部王族の主流派、サイモン・K・イースト様だ。会ったことはあるだろう。」
「そんな、だってあの方は…。」
「そう、王位継承順位第一位。則ち国王に一番近い方だ。」
「しかしあの方にはすでに奥方が。」
「王族が一人しか娶ってはダメか?」
この世界において一夫多妻は珍しくない。大抵二・三人くらいの妻を娶る。かくいうクスィー伯も三人の妻がいる。エリザ姫は二人目の妻の娘だ。
「すでに決まったことだ。サイモン様もお前のことを気に入っておられる。」
「あたくしは……。」
王族との婚姻なら玉の輿どころではない。家族に強大な地位と恩恵が贈られる。
エリザ姫もカズヤに会うまではそれでも良かったかもしれない。
「あの少年のことは忘れろ。次に会うまでにはお前はサイモン様の元にいる。」
「そんな…。」
クスィー伯は静かに立ち上がって愛娘を一瞥し談話室を出て行った。
「あぁ、カズヤ様……。」
一人残された姫はとうとう崩れ、両手を顔に当てて静かに泣き出した。
「あたくしはこれまで貴族であることをこれほど恨んだことはございません……。」
彼女は日が暮れるまで泣き続け、心配してきた母に慰められても泣き続けた。
その後の夕食も始終言葉を発せずいつもより食べないで食堂を退出し、自室に戻った。
「ヴェルテ、あたくしどうすれば……。」
「お嬢様…。」
部屋に備えてある応接テーブルに突っ伏し生まれた時からの相棒に助けを求める。
「……あまりお勧めできることではありませんが、」
「なんですの?」
「三重城からの脱出を提案します。」
また一つ運命が動き出す。
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