第三幕その四
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りと倒れた。
「御父様!」
アメーリアは父を必死に助け起こした。
「無駄だ、私はもうすぐこの世を去る」
彼は娘の腕の中で言った。
「だが悔いはない。こうして娘に出会えたのだからな」
彼は微笑んで言った。
「そんな、やっとお会い出来たというのに・・・・・・」
彼女は涙を流していた。ガブリエレもフィエスコもそうであった。
「私の生涯は憎悪と血に彩られていた。だがそなた達は違う」
シモンはアメーリアとガブリエレに対して言った。
「そなた達には神のご加護があるだろう。そしてジェノヴァもまた真の意味での繁栄を迎える」
彼の声は穏やかであった。それはまるでこれまでの長い憎しみの歴史であったジェノヴァの歴史を清めるかの様であった。
「私はそれをあの世で見よう。それこそが私の最後の仕事だ」
「この世の幸福は全て束の間の悦楽に過ぎないのか」
フィエスコは彼の言葉を聞いて呟いた。
「御父様、死なないで!」
アメーリアが必死に声をかける。
「これが今までの憎悪の報いだというのか」
ガブリエレはかって憎しみに捉われていた己が心の愚かさを悔やんだ。フィエスコは二人を見て再び呟いた。
「人の心は涙を流し続けるものだ。それが絶える事は決してない」
シモンは最後の力を振絞ってアメーリアに対して言った。
「最後に顔を見せてくれ」
「はい」
彼女はその顔を父へ近付けた。
「これでもう良い。思い残す事は何一つとしてにない」
そしてジェノヴァの人々に顔を向けた。
「これでお別れだ。だが一つだけ伝えよう」
「はい」
皆その前に畏まった。
「次の総督はガブリエレ=アドルノを推挙したい。皆この者と共に繁栄の道を歩んでくれ」
そして次にフィエスコへ顔を向けた。
「娘達とジェノヴァを頼む」
「・・・・・・・・・」
彼は黙って頷いた。そしてシモンはアメーリアに顔を向けた。
「さらばだ」
そう言うと静かに目を閉じた。そしてゆっくりとその頭を後ろへ落とした。
「御父様!」
だがむ返事は無かった。彼は娘の腕の中から天界へ旅立ってしまった。
「ジェノヴァの市民達よ」
フィエスコはジェノヴァの人々へ顔を向けて言った。
「これからは彼を、がガブリエレ=アドルノを総督と認めてくれ。そして彼と共に歩もう」
「いや・・・・・・」
誰かがふと口に漏らした。
「ボッカネグラだ!」
そして言った。
「そうだ、ボッカネグラだ!」
皆口々に叫んだ。
「・・・・・・だが彼はもういない」
フィエスコは彼等に対して言った。
「今我々が彼に出来る只一つの事は」
そう言ってアメーリアの腕の中で眠るシモンに顔を向けた。
「祈るだけだ」
皆その言葉に従った。跪き静かに祈りを捧げる。
「そしてこの街
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