第三幕その三
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第三幕その三
「貴様はわしから娘と孫を奪った。そしてわしは貴様の命を奪う。それこそが神が定めたもうた宿命なのだ」
剣の柄に手を置く。そして執務室へ向かおうとする。
「ムッ!?」
その時だった。前から数人やって来た。
「あれは・・・・・・」
見ればシモンとその従卒達であった。シモンの足取りは今にも崩れ落ちそうだ。
「あ奴か」
フィエスコは彼の姿を認めて呟いた。
「ここは様子を見るか」
彼は身を物陰に隠した。
「灯りを消すように伝えよ。そして静かにするようにな」
シモンは側に控える秘書官に対して言った。
「ハッ」
秘書官はそれに対して一礼した。
「特別な日ではない。ごく普通の二人の祝儀だ。街全体で祝う必要は無い」
「わかりました」
「そして暫く一人にさせてくれ。どうも気分が晴れぬ」
彼は周りの者達に対して言った。
「わかりました」
彼等はそれに従った。シモンから離れその場を後にする。
「ふう・・・・・・」
彼はそこにあった椅子に腰を下ろした。
「身体が重いな」
彼は顔を下に向けて言った。
「意識が乱れる。これは一体どうしたことか」
彼は疲れた声で呟いた。
「あの潮風が懐かしい。船の上で戦いを前に頬を伝わったあの風が」
かっての若き日に思いを馳せた。
「あの時こそ私の人生の中で最も素晴らしい時だった。あの時は海に生き海に死ぬものと思っていたが」
あの船の上での戦いの日々。ヴェネツィアやイスラム教徒達と激しく刃を交えたあの若かりし頃。
「あの場所で死にたいものだ。せめて最後位は」
「それは出来ないな」
フィエスコは姿を現わして言った。
「そなたはあの時の・・・・・・」
シモンは彼のことを覚えていた。
「そうだ。貴様を恐れぬ生き恥を晒す老人だ」
彼は剣の柄に手を当てて言った。
「そうか、ならば」
シモンも剣に手をかける。だがその手は剣の柄から滑り落ちた。
「な・・・・・・」
シモンはその滑り落ちた自分の手を見て驚愕した。上げようとする。だが力が入らないのだ。
「無駄だ。御前の命はもうすぐ尽きようとしている」
彼は口だけで笑った。否、笑ったつもりであった。それは笑みにはならなかったのだ。
「貴様はあのパオロ達に毒を盛られたのだ。あと幾許もなくしてこの世を去るだろう」
「そうか、あの時の水に・・・・・・」
彼は先程飲んだ水のことを思い出した。
「苦い筈だった。あれは死への水だったか」
「安心しろ、貴様は世間では勝利者としてこの世を去るのだ」
フィエスコはそう言うと剣をゆっくりと抜いた。
「だがわしとの因縁では貴様は敗者として死ぬ」
「御前はまさか・・・・・・」
シモンはこの時全てを悟った。
「そうだシモン、死人が
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