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剣の丘に花は咲く 
第七章 銀の降臨祭
第四話 貫かれる剣
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心に積もる恐怖は大きかった。
 たった一人の男の手により、七万の軍の突撃を二度に渡り止められたどころか、逆に攻められているという現実。
 未知の魔法により、この数え切れぬ剣が突き立つ果て無き荒野の出現。
 遠くに咲く臓物の芳香を香らせた赤黒い大輪の華。
 天を覆い尽くす程の魔法の輝き。
 着弾と共に響く爆音と地響き。
 決着が着いたと思いきや、響くメイジの悲鳴。
 そして、無双を誇る筈のアルビオン軍自慢の竜騎士を撃ち落とした、空を切り裂き飛ぶ九つの光。
 それを前に、アルビオン軍の士気は完全に崩壊した。
 削られるように、軍の端を構成する兵士が逃走を始めた。それを止めるべき指揮官も、止めるどころか一緒になって逃げる始末。一旦崩れ始めた軍の崩壊は、止まることなく、更にその崩壊の速度を早めていく。
 果てない赤い荒野。
 何処へ逃げればいいか分からないまま、ただ、一刻も早くあの男から離れたいという思いに駆られながら、アルビオン軍は走っていた。






 士郎に腕を切り飛ばされ倒れたホーキンスに、副官と思われる男が駆け寄っていった。副官はホーキンスがまだ生きていることに気付くと、「撤退」を命じながら逃げ出していった。それを切っ掛けに、士郎から離れるようにアルビオン軍が逃走を始めた。士郎は逃げるアルビオン軍の背中を切りつけることなく。最初に宣言した通り。デルフリンガーを右手に引っ掛けるようにして持ちながら、逃げるアルビオン軍を攻めることなく、ただ見つめるだけであった。

 不意に、何かが割れる音が響き。
 赤い世界が崩壊を始めた。
 ひび割れた世界の隙間から、青々と茂る草原の姿が見える。
 アルビオン軍が唐突に始まった世界の崩壊に足を止めるよりも先に、世界が白く染まり。

「……戻っ……た?」

 デルフリンガーのポツリと呟かれた言葉通り、無限の剣が突き立つ果て無き赤い荒野の世界から、明るい日に照らされる世界に戻っていた。
 微かに残る朝霧の向こうに、逃走するアルビオン軍の姿が見える。元の世界に戻ってこれた安堵よりも、士郎に対する恐怖が勝っているのか、足を止めることなく逃げ続けている。微かに見えていたアルビオン軍の姿が、陽光に照らされる草原の彼方に消えいていく。
 残滓のように感じる振動さえ感じなくなった頃、恐る恐るといった風に、デルフリンガーが声を上げる。

「……やった……のか」

 言葉にしても、未だ信じらない。
 しかし、段々と実感が湧き上がってくる。
 七万の軍。
 それを足止めするどころか、打ち破り、撤退に追いやった。
 目の前にしても、信じられない。
 だが、やったのだ。
 相棒はやったのだ。
 七万の軍を打ち破ったのだ。
 凄げぇ。
 凄げぇ!。
 凄すぎるぜ…
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