アインクラッド 前編
Deep psyche
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、それの言葉は彼には届いていないのか、もしくは届いているのに彼が動作を止めようとしていないだけなのか、トウマの行動を阻害することは出来ない。
「……止せ、止してくれ……!」
マサキが必死に呼びかけるが、尚もトウマは無反応だった。そしてついにトウマの体が四半回転し、整った横顔が露になった。その顔に設置された唇は、微妙に端が吊り上がっていて……。
「うわあああああああっ!!」
マサキは彼らしくない声を上げ、反転しつつ駆け出そうとする。が、粘つく霧に足を取られ、それでも無理に体を捻った結果、マサキは体勢を大きく崩した。足元に沈んだ、特に重くべとついた霧にその体を埋める。
「ぐっ……!」
痛みではなく体に這い纏わった感触に対して、マサキは小さく呻いた。体を貫いた衝撃を、頭を振って追い出しつつ、再び立ち上がろうと四肢に力を込める。
『……しいよ、……サキは』
立ち上がりかけたマサキに、背後からの声がぶつかった。これまでで一番はっきりとしたそれは、聞こえなかった部分を推測させるには十分な程の感情を携えていて。
「止めろ!! ……俺は……俺は優しくなんてない!!」
電磁波が分子を振動させて温度を上げるように、マサキの心を揺さぶって、ヒートアップさせた。
堪えきれなくなったマサキの口から、何かを拒絶するような叫びが飛ぶ。
……すると、その叫びに反応したように、ただの濃い水滴の集合体であったはずの周囲の霧が変化した。幾千もの触手、あるいは植物の蔓の様な姿形になったそれが瞬く間にマサキに絡みつき、体を縛った。続いて地面までもが底なし沼のように変形を遂げ、巻きついた蔓ごとマサキを飲み込んでいく。
「ぐっ!? ぐあ、ああああああっ!!」
マサキの心を恐怖が支配し、悲鳴とも絶叫とも取れる叫びを上げる。だが、その声に答える者は誰もおらず、マサキは暗黒の地中へと吸い込まれた。その途端に、途轍もない眠気が襲う。
「対……の深そ……か……了。つ……て……に移行。身……具現……不可能? そ……な……じゃ……何……でき……!」
何処からかやってきた遠鳴りのようなか細い声が耳を抜けていくのを感じながら、マサキは押さえられなくなった睡魔に意識を奪われたのだった。
「…………ッ!!」
ガバッ! という掛け布団とシーツの摩擦音と共に、マサキは横たわっていた体を起こした。すぐさま首を左右に振り、現在位置を確認する。
窓から覗く灰色の雲、その雲を通り抜けることに成功した何割かの光がぼんやりと照らす机椅子、その他諸々の調度品。それらはここが宿の自室だということをはっきりと物語っていて、マサキは安堵した。背中を伝う不快な水滴を寝巻きのシャツで拭い、足を床に下ろす。部屋に備え付
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