アインクラッド 前編
Deep psyche
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の奥に隠された、暗闇に順応しきった網膜を灼いた。
膨大な光が殺到し、漂白された視界の中で、マサキは光の粒が存在した場所に一つの影を見たのだった。
「……ッ!」
マサキは右手でこめかみを揉みながら、未だチカチカと異常を訴えている両目を強引に開いた。ぼやけた視界がゆらゆらと霞む。
だが、目が訴える異常が治まっても、視界が回復することはなかった。それもそのはず、今マサキの視界を奪っているのは、マサキに纏わり付いた霧だったのだから。
マサキはそこに気が付くと、足を前へと踏み出した。途端に、ぬるり、という嫌な感触が、その霧がいかに濃密で鈍重かをマサキに知らしめる。にもかかわらず、疎ましく思ったマサキが掻き分けようと手を動かすと、それはまるで意思を持った生物のようにマサキの手を避け、結果、マサキは霧に触れることさえかなわない。
マサキは顔をしかめながらも前へと進む。自らを束縛する不快な霧から逃れようと、細い体の筋力を全て使って足を運ぶ。
しかし、マサキを覆う霧は薄くなっていくどころか、さらにその密度を高めていった。最初は薄めたスライム程度だった粘度は、十メートルほど進んだ頃にはジェル程度まで高まっていて、それ以上足を動かすことさえ困難になる。
それでも諦めず、マサキは前へと進んだ。纏わり付く空気を力の限り振り払い、掻き分けて体を運ぶ。
『……いよ、……キは』
前回よりもはっきりとした声が、何処からともなくマサキを撫でた。その声に導かれるように、マサキは歩いていく。すると霧に覆われた視界に、一つのシルエットが浮かぶ。その影は徐々に形をはっきりとしたものに変えていき、やがてそれが人の形をしていると判断がついた。――その頭部が、ライトブラウン一色に塗られていることも。
「……トウマなのか?」
「…………」
「こんなところまで出張って来て、一体何の用だ」
「…………」
「おい、聞こえているのか? 返事くらいしたらどうなんだ?」
度重なるマサキの質問に全て沈黙を以って答えたトウマは、やがて緩慢な動きで振り返る素振りを見せた。
(やっと話を聞く気になったか)
マサキがそう思ったのも束の間、何処からか突如湧いたゾクリという悪寒が、背中を駆け上がった。それは背中から首へと移り、頭まで進んだところで、二つの表情に姿を変えた。
――クラスメートが浮かべていた、対象の全てを否定したような笑み。スーツのビジネスマンが浮かべていた、感情のない、乾ききった笑み。その二つがマサキの脳内で再現され、そしてそれは、たった今振り返りつつあるトウマの顔にも同じものが張り付いているのではという疑懼をマサキの思考に植えつける。
「……止めろ」
いつになくしゃがれた声が、マサキの唇から漏れた。だが
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