暁 〜小説投稿サイト〜
シャンヴリルの黒猫
32話「スレイプニル (2)」
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 その“馬”、魔獣スレイプニルは、食い入るようにじっと3人を――否、アシュレイを見つめていた。スレイプニルと4人を隔てるものは、木製の柵だけ。スレイプニルの後ろ脚には極太の鎖と重そうな鉄球が置いてあったが、そんなもの魔獣の前には僅かな足枷にすらならない、羽毛のようなものだ。

「なんで……あ、貴方、これがどんな存在か分かっているのですか!?」

 クオリが店主に詰め寄るが、店主は飄々と答えた。

「分かってるとも。Dクラスの魔物さ。だが大丈夫。こいつは生まれてすぐ人に育てられたから、襲ったりしない。自分より人の方が強いと思っているからな」

(なるほど)

 どうやらこの店主、全く気づいていないらしい。この“馬”は、魔物でなく魔()で、人語を解す知性を持ったけもの(・・・)であるということに。

(つまり、親元から仔を攫ってきたというわけか。……下衆が)

 当然クオリは気づいているから、真っ赤になって怒鳴ろうとしたが、それは寸でのところで止められた。ユーゼリアが店主に、今にも飛びかからんとする勢いで尋ねたからだ。ずり落ちかけたフードを、アシュレイが止める。クオリが慌てて深く被り直した。

「じゃ、襲ってこないのね!?」

「おう。だが、長年世話してる俺も、いまだヤツに懐かれていない」

(そりゃそうだ)

 誰が格下に懐くものか。そもそも、本能に従う魔の者が、今までこんな閉鎖された空間で暴れださなかっただけで奇跡だ。それも【魔の眷属】ともなれば、彼らが(こうべ)をたれるのは、圧倒的な実力差を持つ相手のみである。

 アシュレイが元・魔ノ者として、目の前の人間に対する内心のイライラを、深呼吸でどうにか処理しようとしている間も、魔獣はじっと彼を見つめていた。

「ヤツが頭を撫でることを許したら、お嬢ちゃんの勝ちだ。兄さんたちも参加権はあるぞ」

「よぅし、じゃ、私から行くわ!」

「ッおい、ちょっと待て!」

 アシュレイが慌てて止めるも、時既に遅し。ユーゼリアは柵の向こう側へいってしまった。

「リアさん!」

 クオリも悲鳴をあげるが、そのとき既にユーゼリアは、スレイプニルの頭に手を伸ばしかけていた。


――手ヲ出スナ


 びくりと、魔獣が震える。


――彼女ヲ襲ッタラ、貴様ヲ殺ス


 そのまま、ユーゼリアの手がスレイプニルの頭に触れる――直前、スイッと頭が手をよけた。

 攻撃は、しなかった。

 ユーゼリアは諦めきれないのか、再度手を伸ばすが、全て避けられる。いっそ抱きついてやろうかと身構えた瞬間、ぐいっと後ろに引っ張られた。

「ぐぇっ」

 乙女らしからぬ声を上げると共に、フードを引っ張られたのだの知ると、ユーゼリアは
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ