11 「男が泣いていいのは人生3回だけ」
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「着きました。ようこそ、ユクモ村へ!」
にこにこ笑いながらリーゼロッテが門の前に立つ頃には、もう日は傾き始めていた。
温泉が名物というこの村の総人口は70人程度。決して大きな村ではないが、実際温泉目当ての観光客でそれ以上の人混みがあるから、どうにも規模の大きい村であると勘違いしやすいらしかった。
村の一番てっぺんにある集会浴場はハンターズギルドも兼任しているらしく、年中もくもくと湯気が立ち上り、またそれが浴場へと続く道に植えられている紅葉の朱を鮮やかに見せるのに一役買っている。
山岳地帯にあるためか段差が激しく、いたるところに階段があり、狭い土地に密集して民家が連ねている村は毎日歩いているだけで結構な足腰の鍛錬になりそうだ。名物“ガーグァの温泉卵”を店頭で販売している店や、今が旬の果物を並べて客の呼び込みをしている店、品物制作の傍ら店番をしている老婆が営む土産物屋など、沢山の店が大通りをせしめている。3歩歩けば人とぶつかる、というほどではないにしろ、そこそこ混み合っているように見られた。
のだが。
「い、いやぁ、ナギさんの後ろを歩くと広くていいですねぇ〜!」
「あー、えっと……ご、ごめんなさいね。つい…出来心で……、…いや、出来心ってほど軽いものでもないんだけど…いや、でも……」
あからさまに顔をしかめながら道行く人々に徹底的に避けられて、そこだけ空白の空間を作り出しているナギの後ろには、なんとか明るい場を保とうとして墓穴を掘っているリーゼロッテと、今更恐縮して頭を下げ始めたエリザがいた。
「……ま、こうニャることは分かってたニャ。ね、旦那さん」
「……ああ、うん。そうだよ。わかってたことさ。ダイジョウブダイジョウブ」
ひとりごちた。そう、とりあえず村に来ると決めた以上、今日一日はこういう状況に置かれることくらいわかっていた。
(けど…けどっ……!)
流石に本当にやられるとクるものがある。耐えろ、耐えるんだ! 男が泣くのはこんな場面じゃないっ。
「えー…と、とりあえず村長の家へ向かいましょう!」
リーゼが先陣を切って進んでいく。村の様子を盗み見ながらうしろに続いていくと、ナギの頭の上でいい具合の座り心地場所を確保したルイーズが口を開いた。彼女もまたメラルーゆえの黒毛で村人から白い目で見られているのだが、気にした風もなかった。なんとも逞しい。
「いろんニャとこに赤い布や飾りがあるのは、何か理由でもあるのかニャ?」
「ああ、それはね」
エリザが後ろから物欲しそうにナギの狩猟弓を見つめながら説明する。リーゼロッテは人ごみを掻き分ける(空間が空いているのは飽くまでナギの後ろなので)のに一生懸命で、聞こえていないようだ。
「ユクモでは赤は厄除けの力があるとされてい
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