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シモン=ボッカネグラ
第二幕その一
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連れている。
「早かったな」
「ああ、こちらも急いでいるものでな」
 ピエトロはいささか焦りながら言った。
「ご苦労。それじゃあ先に行っておいてくれ」
「わかった。あの場所で落ち合おう」
「ああ」
 ピエトロは逃げる様にその場から姿を消した。
「また悪事を企んでいるようだな」
 老人はそんな二人を見て言った。
「それがあんたにどういう関係がある?」
 パオロは居直って彼に対し言った。
「ヤコブ=フィエスコ。あんたも本来ならこの街にはいられない筈だがな」
「えっ!?」
 ガブリエレはその名を聞いて驚愕した。彼の名はこのジェノヴァで知らぬ者はいなかった。かってシモンの最大の敵として彼と争った貴族達の領袖の一人であったのだ。
「・・・・・・何処でそれを知った」
 彼はそれを否定することなく問うた。
「流石だな。てっきり否定すると思ったが」
 彼はそれを見て口の左端を吊り上げて笑った。
「わしを馬鹿にしてもらっては困るな。これでもフィエスコ家の主だ」
「もう廃れてしまった旧家のか」
 彼は皮肉を込めて言った。フィエスコはそれには答えなかった。
「まあそんなことは今はどうでもいい。あんた達に頼みがあってここへ来てもらった」
「何だ!?悪事なら一人でやればいい」
 フィエスコは嫌悪感を込めて言った。
「相変わらず頑固だな。それが家を没落させる原因となったというのに」
「誇りと言ってもらうか。卑劣な事や悪事はフィエスコ家にとっては最も忌むべきものだからな」
「やれやれ。あんたにとってもいい話なんだが。ガブリエレさん、貴方にもね」
 彼はそう言うと水を飲んだ。そして二人に対してあえて友好的に微笑んだ。

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