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シモン=ボッカネグラ
プロローグその一
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教会の前を二人の男が歩いている。何やら色々と話し込んでいる。
「おいピエトロ、それは本当の話か!?」
 黒い髪の中年の男が赤い髪の若い男に言った。
「パオロ、声が大きいぞ」
 ピエトロと呼ばれたその赤髪の男は黒髪の男に対して言った。
「本当だ。総督に選ばれるのはこのままじゃロレンツィーノで決まりそうだ」
「よりによって最初の総督があんな奴になるのか。他にはいないのかよ」
 パオロは不満を露にして言った。
「いるぜ、一人」
 ピエトロはニヤリ、と笑って言った。
「誰だ?」
 パオロはそれに対して問うた。
「御前さんもよく知っていると思うがな。シモンの旦那だ」
「シモンの旦那!?シモン=ボッカネグラか」
 パオロはその名を聞いて思わず喜びの声をあげた。
「ああ、あの人ならその資格は充分あるだろう」
「おお、地中海からサラセンの奴等を追っ払いヴェネツィアの野郎共をのしてくれたあの人なら問題ないな。嫌、他に相応しい人もいないだろう」
「そう思うだろう。あの人はしかも平民出身だ。総督に押し上げたら俺達にも分け前がたんと来るぜ」
 ピエトロはそう言ってニンマリと笑った。
「黄金も権力も名誉も思いのままか。今まであの連中が独占していた」
 パオロはそう言って右手の貴族の邸宅を見た。
「ああ、その中でも散々威張り散らしてくれたフィエスコの野郎、あいつだけは只じゃおかねえ」
 ピエトロはその屋敷を憎悪の目で見た。
「当然だ。あいつは許さねえ。この屋敷と一緒に焼き尽くしてやる」
「そうしようぜ。俺はその事前の準備に取り掛かるとしよう」
「おお、頼むぜ。そして貴族の奴等を皆殺しにしてやるんだ」
「そうだ、あの高慢な鼻を削ぎ落とし縛り首にして腐った果物みたいにずっと吊るしてやる」
 ピエトロはそう言うと左手の平民の家々の中に消えた。後にはパオロが残った。
「見てろよ、お偉いお貴族様よお」
 パオロは再び屋敷を見て言った。
「今まであんた等にへいこらしていたがこれからは違うぜ。今度は俺達が手前等をこき使う番だ」
 そう言って笑った。憎しみに燃えた見ていてあまり気分のよくない笑みである。
 その時左手から一人の男がやって来た。
 質素な船乗りの服を着た黒い髪と瞳の男である。顔は日に焼けた精悍なものでありやや長身のその身体はよく引き締まっている。彼こそシモン=ボッカネグラその人である。
 ジェノヴァの有力な市民の家に生まれた。彼の家は平民ながら代々この街の政治に携わっており首長も出している。
 彼自身は海賊をやっていた事もあるがこれは海賊と言うよりはジェノヴァの為に戦う海軍のようなものであった。当時は海賊と海軍の区別は比較的曖昧であった。当然海賊が国家に召し抱えられて海軍になる場合もあったしその逆もあった。彼もそうした
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