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魔弾の射手
第二幕その二
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けれど本当に大きな羽根ね。私こんな羽根見たのはじめてよ」
 彼女は窓から入る月と星の光でその羽根を見て言った。
「何処でこんな羽根を持った鳥を撃ったの?よろしければ教えて」
「いつもの森さ」
 彼は答えた。
「いつもの」
「そうさ、けれど特別な方法でね」
「特別な!?」
 それを聞いたアガーテは思わず首を傾げた。
「そうなんだ。そしてもう一つ獲物があるんだ。その特別な方法で捕まえた幸運がね」
「それは何!?」
「十六叉角の大きな鹿さ。今からそれを家まで引っ張っていかなくちゃならないけれど」
「鹿を」
「そうなんだ」
「それは何処にあるの?その鹿は」
「かなり遠い場所さ」
「何処なの?」
 アガーテはさらに聞いた。
「狼谷さ」
 その谷の名を聞いたエンヒェンとアガーテは顔色を失った。
「狼谷!?」
「ああ」
 マックスはそれに頷いた。
「何かあるの?」
「何かって」
「あの谷のことは知っていますよね!?」
「勿論だよ」
 マックスは素っ気無い様子でそう答えた。
「では何故」
「アガーテ」
 しかしここで彼はあえて強い声を出した。
「狩人が恐れてはならないよ」
「けど」
「僕は大丈夫だ。夜中に何度も森の中を歩いてきている。時にはくまや狼に襲われたり囲まれたりしたこともある」
「それなら」
「だからこそだよ。だからこそ僕は恐れはしないんだ」
「けれどマックス」
 アガーテはそれでも言わずにはおれなかった。
「あの谷にいるのは熊や狼じゃないのよ」
「魔物か」
「そう」
 アガーテは答えた。
「あの森だけでなく夜の世界を司る魔王がいると言われているわ。そんな場所に行ったら」
「だから大丈夫だと言っているじゃないか。魔王?そんなものを恐れはしない」
 彼はアガーテを安心させるように話した。
「樫の木が嵐に唸り、烏や梟が空を覆っていても僕は恐れなかった。今更魔王なぞ」
「マックス様」
 見かねてエンヒェンも入って来た。
「お嬢様の御言葉をお聞き入れ下さい」
「気持ちは有り難いけれど」
 それでも彼は行かねばならないのであった。
「わかってくれ。これは君の為なんだ」
「鹿なんて何時でも手に入るわ。それよりも私は」
「鹿なんかじゃないんだ」
 だが彼はここでこう言い放った。
「もっと大事なものの為に。そう、君の為に」
「私の・・・・・・」
「それは明日わかる。だから・・・・・・行かせてくれ」
 そう言うと彼は足早にその場を去った。そして部屋を後にした。
 アガーテは不安に満ちた顔でそれを見送った。もう何も言えなかった。エンヒェンはそんな彼女を励まし、元気付けることしかできなかった。彼女の顔にも不安と恐怖が浮かんでいた。

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