第二幕その一
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「やっぱり不安なのよ。あの人のことが心配で」
アガーテは俯いてそう言った。
「マックス様のことが?」
「ええ」
彼女は答えた。
「ほら、最近何か調子がよくないらしいし。明日もしものことがあれば」
「あれば?」
「結婚できなくなるかも知れないのよ。そうなったら私」
「またそうやって塞ぎ込まれる」
エンヒェンはふう、と溜息をついてそう言った。
「あの方に限ってそのようなことはありませんよ」
「けど」
だがアガーテは不安を禁じえなかった。エンヒェンはそんな彼女に対してこう語った。
「あの方がお好きなのでしょう?」
「ええ」
「でしたら」
彼女はここで絵を取り付け終わった。
「とりあえずこちらはこれでお終い。御先祖様はやっぱり上におられないと」
「そうね」
アガーテもそれに同意した。
「ところで」
そしてエンヒェンは話を戻しにかかった。
「あの方のことですけれど」
「マックスの」
「そうです。綺麗な金髪に青い瞳に整ったお顔、ご不満はおありで?」
「まさか」
アガーテはそれに首を横に振った。
「私なんかには勿体ない程だわ」
「そうでしょう。おまけにスラリとしておられる。容姿は問題なし」
ここで彼女は下に降りて来た。
「それだけでなく猟師としても言うことなし。人柄も素晴らしい、と非の打ち所がありませんわ」
「そうだけれど」
「それなのに何が不安でして?」
「隠者様の御言葉が」
「あら、隠者様の」
「そうなの。エンヒェン、これを見て」
彼女はここで一輪の花を取り出した。それは白い薔薇であった。
「薔薇」
「そう、薔薇よ。隠者様が下さったの。これを忘れるな、って」
「何故ですの?」
「この薔薇が私を守ってくれるからって。どういう意味かわからないけれど」
「守って下さるのですね」
暗い顔のアガーテに対してやはりエンヒェンは明るいままであった。
「でしたら問題はありませんわ」
そしてやはり明るい声でこう言った。
「そうかしら」
「お嬢様」
エンヒェンはアガーテに微笑みながら話をはじめた。
「私の父が軍人だったのは御存知ですわね」
「ええ」
「その父が言っていましたわ。恐怖を嘲ろと」
「恐怖を」
「そうですわ。そうしたら恐怖は逃げて行くと。わかりましたわね」
「貴女がそう言うのなら」
それを効いてアガーテの顔色は少しよくなった。それを見たエンヒェンは続けた。
「その薔薇を大切にして下さいね。それがお嬢様を御守りするのでしたら」
「ええ」
「とりあえず今は夜の新鮮な空気に当てておきますね」
ヘンヒェンはアガーテの手からその薔薇を受け取ろうとする。だがアガーテはそれを止めた。
「待って」
「どうしました?」
「もうちょっと持って
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