第百二十話 出雲の阿国その十
[8]前話 [2]次話
「決してな。だが運命は大きいものよ」
「意識せずともですか」
「会えるというのですか」
「運命がわしをそうさせるのいうならな」
会える、幸村は言った。
「そうなるであろうな」
「ふむ、そうですな」
三好伊佐は思慮する顔で述べた。
「殿が今都に来られたのも運命です」
「そして阿国殿と会った」
「それだけではないかも知れません」
「運命がわしを導くのなら」
「そうです、必ず誰かと会えるでしょう」
「では運命に期待するか」92
「それがよいかと」
三好伊佐が幸村の言葉を受けて微笑んで応え、そうしてだった。
今度は筧がこの者の名前を出した。
「この織田家が治める都には傾奇者が集っていますが」
「歌舞伎でもないな」
「はい、傾奇の方です」
筧が言うのはこちらだった。
「その傾奇者の頂点、その天下を目指している者が闊歩していて」
「確か織田家の」
「前田慶次です」
「あの者か」
「それに上杉から」
武田の宿敵のこの家の者の名前も出る。
「直江兼続も」
「何っ、あの者も来ておるか」
ここで幸村の声が変わった。
「左様であったか」
「はい」
「そうか、来ておるか」
「川中島以来ですな」
筧はすかさず言う。
「あの時は引き分けましたな」
「勝つことができんかったわ」
幸村はこのことに悔しさを滲ませて語る。
「無念じゃったな」
「強かったですな、かなり」
「二本の刀を使い」
幸村は二本の槍を使うが直江はそちらだ。そしてその槍と刀が激突したのが川中島での二人の一騎打ちだったのだ。
川中島では信玄と謙信も一騎打ちを行った、そして彼等もだったのだ。
「激しい一騎打ちでしたが」
「それでもでしたな」
「わしの二本槍はただ二本使うだけではない」
幸村は自負も見せて語る。
「動きの一つ一つに魂を注ぎ込んでおるのじゃ」
「つまり動きの一つ一つが命」
「そうだというのですな」
「そうじゃ、命を込めて戦っておる」
それが幸村の戦いだ、しかも相手が誰でも手を抜くことはない。
「それ故に自信もあるがな」
「しかしあの男は殿と互角でしたな」
幸村は個人的な武勇でも知られている、武田家で最強の武勇の持ち主とさえ言われている。
だがその彼に対してだったのだ。
「あそこまで強いとは」
「恐ろしい強さでしたな」
「次は勝ちたい」
幸村はこの心境も見せて語る。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ