第三幕その一
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った。
「白い鳩は幸福、そして黒い鳥は災厄です。お嬢様が災厄から救われるということですわよ」
「そうなのかしら」
「ええ」
エンヒェンは彼女を元気付けるように強い声で応えた。
「だからそんなに落ち込まれることはないですよ」
「わかったわ」
アガーテはそう答えた。だがやはりその顔は晴れない。エンヒェンはそんな彼女に対して遂にこう言った。
「では一ついいお話を致しましょう」
「お話?」
「そうです。お嬢様が望まれているお話をです。宜しいですか?」
「ええ、どうぞ」
彼女はそれを薦めた。エンヒェンはそれを受けて話をはじめた。
「私の従姉のお話ですけれどある日寝ていたら急に無気味な気配がしました」
「真夜中に!?」
「はい。部屋の扉が開いて何かがやって来ます。火の様に燃え盛る瞳を持って鎖を鳴らしながら」
「それはもしかして」
「お話は最後までお聞き下さい」
エンヒェンはここで微笑んで彼女を制止した。
「その様子に驚いた彼女は思わず悲鳴をあげました。そしてそれを聞いた家の人達が見たものは」
「何だったの?」
「犬でした」
「犬!?」
「そう、買っていた家の犬でしたの。とんだ化け物でしたの。そういうお話ですわ」
「よくあるお話ね」
アガーテはそれを聞いて少し溜息を出した。
「けれど少しは気持ちは上向いたのではありませんか?」
「ええ」
それは事実であった。アガーテはほんの少し笑ってそれに応えた。
「花嫁はそうでなくてはいけませんわ。笑っていないと」
「そうね」
アガーテはようやく彼女の言葉に笑顔で頷くようになった。
「貴女の言葉に従うわ」
「そう」
彼女はアガーテのその言葉を聞き満足したように頷いた。
「そうでなくてはいけません」
「ええ」
「花嫁に相応しいのは悲しい顔ではありませんわよ」
またアガーテを元気付けるように言った。
「明るい顔こそが相応しいのです。周りを幸せにするような顔が」
「それが花嫁の務めなのね」
「そうです、その通り」
彼女は言葉を続けた。
「回りを喜ばせるのが。悲しみは別の仕事、少なくとも花嫁の仕事ではありません。ですから」
またアガーテに言う。
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