第一幕その一
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が聞こえる。ここはそうした森の中の一つであった。
ボヘミアの森であった。昼だというのに薄暗い。今この森の酒場で多くの者が集まっていた。
「おい、次は誰だ!?」
見れば猟師達が集まっている。そして大きな木にかけられた的を前にして何やら色々と話をしている。
「マックスらしいぞ」
誰かが言った。すると中から長身の逞しい身体つきの青年が出て来た。豊かな金髪に青い目をした端整な顔立ちである。精悍で、まるで古の狩人の様である。その漁師の服と帽子がよく似合っている。しかしその表情は何処か冴えない。
「上手くやれよ」
「頑張れよ」
同僚達が彼に声をかける。彼、マックスはそれに頷いた。
「ああ」
だが声は晴れない。何かしらもやがかかったようである。
マックスは木の前に出た。そして銃を構える。
「いよいよだな」
「いけるかな」
人々は彼を見ながらそう囁いている。マックスはその声に何処か神経質になっているようであった。
「マックスなら大丈夫だろう」
そういう声が聞こえてくる。だが彼の心の中はそうではなかった。
(いけるか)
彼はふとそう思った。そしてここで思い直した。
(いや)
同時に不安が心の中を覆っていく。
(しなくてはならない)
そう自分に言い聞かせた。その迷いが狙いに影響が出たのは至極当然のことであった。
銃声が鳴り響く。だが的は壊れはしなかった。ただ銃声だけが空しく響いただけであった。
「ああ・・・・・・」
マックスはそれを見て絶望した声をあげた。的は彼を嘲笑うかのようにその場に元のまま留まっていた。
「駄目だったか」
人々はそれを見て口々にそう言った。
「まあこういうこともあるさ」
「だがこれで優勝は決まったな」
「ああ、キリアンだ」
人々はここで農夫の服を着た男の周りに集まった。
「おめでとう、あんたが優勝だ」
「いやいや」
その農夫の服を着た恰幅のよい男に人々は花束や帯緩を手渡す。彼はそれを笑顔で受け取っていた。
「まさかわしが優勝するなんて思わなかったよ。いや、こんなことははじめてだ」
「おや、そうだったのかい」
人々はそれを聞いて彼にそう尋ねた。
「ああ、若い頃からあまり上手くはなかったからな。それにここんとこは」
「マックスがいつも優勝していたからな」
ここで人々は的の前で暗い顔をして立っているマックスに目をやった。
「今日はどうしたんだろうなあ。いつもだったら訳なく当てるのに」
「それだよ。何かあったんじゃないか」
「何かって何なんだよ」
「おいおい、それまではわからねえよ、わしにも」
こうした話をしながら彼等はマックスを見ていた。やがて彼は的の前から離れキリアンの前に来た。
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