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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第60話 秋風の吹く魔法学院にて
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醒した吸血姫と言う存在は、かなり忌避される存在で有る事は間違い有りませんから。

 俺の問い掛けに、憂いを帯びた瞳に、再び上空に顕われた蒼き女神を映す蒼き吸血姫(タバサ)。彼女が発するのは、逡巡。そして、やや陰気に染まった影。

 そうして、

「あなたは、わたしの元を……」

 何かを言い掛けて、しかし、タバサは言葉を止めた。彼女独特の雰囲気。儚い、と表現するのが相応しい雰囲気を纏い、そして、瞳にのみ言葉を乗せて……。
 ただ、何を伝えたかったのかは判る心算です。

「しばらくは、ガリアの為に働くのも悪くはない」

 俺は、ゆっくりとタバサを、そして何より自分を納得させるように、そう言った。
 そして、

「俺も。そして何より、タバサも普通の人よりは長い時間を生きる生命体と成った。それなら、その時間の内の少しの間ぐらい、他人の為に使っても罰は当たらないからな」

 俺は僅かに首肯きながら、再び空と成った彼女のグラスに片手でゆっくりとワインを注いで行く。
 窓から差し込む月明かりのみに照らされた室内(世界)に、グラスに注がれる液体が、その色に相応しい幻想的な影を作り出す。

 タバサは開け放たれたままに成って居る窓から覗く蒼き女神を瞳に映し、しかし、俺に対しての答えを返そうとはしなかった。但し、不機嫌に成った訳でもなければ、否定的な雰囲気を放っている訳でもない。
 ただ、彼女はグラスの半ばまで満たされた、救世主の血と称される紅き液体に映る月にゆっくりと視線を移しただけ。

 そう。ただ、それだけで有った。

「こうやってタバサに酒を注いでやれるのも、ここに俺と、オマエさんが居るから。
 今はそれだけで十分やないかな」

 それに、諦めなければ、大抵の事に関しては何とでも成りますから。動き続ける事態から逃げ出す事……貴族の責任を放り出して逃げ出す事が論外ならば、気に入らない事は受け入れなければ良いだけです。
 責任を放棄して逃げ出す事。彼女を攫って、何処かに逃げ出す事が許されないのならば……。

 ただ静かな室内に、周囲の林を吹き抜けて来る秋の風と、学院内に住む小さき生命体たちが奏でる愛しき音楽が響く。
 ゆっくりと、その手の中に有るグラスから俺の顔へと視線を移すタバサ。そう、この月下の酒宴が始まってから初めて、彼女の蒼い瞳に俺を映した。
 そして、僅かに首肯く。

 その瞳は、相変わらず酔いの兆候を示す事は無かった。
 但し……。
 但し、その蒼き瞳に浮かぶのは、明らかに希望の光。

 その時の彼女の瞳には、確かに希望の光が浮かんで居るように、俺には感じられた。


☆★☆★☆


 ヨーロッパに当たる地域としては珍しいはずなのですが、猛暑を飛び越えて酷暑と呼ぶに
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