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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第60話 秋風の吹く魔法学院にて
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 九月(ラドの月)の夜空には、普段通り真円に近い蒼い月と、月齢にして四ないし五の上弦の月からの使者が、室内を明るく差し込んで来て居た。
 そう。日本でならば、未だ晩夏と表現しても良いこの九月(ラドの月) 、第一週(フレイアの週)の大気は、まさしく秋。
 日が暮れるとほぼ同時に囁くように始まり、それはやがて、己が生命の限りを主張する数多の虫が奏でる音色が耳に愛しく伝わり、高く渡る雲に隠された女神が、その花の容貌(かんばせ)をほんの一瞬、垣間見せる瞬間が世界をもっとも美しく見せる季節。

 そう。まさに月に叢雲、花に風。……と言う言葉に相応しい、もう片方の季節。

 外界を一望出来る位置に動かしたイスに座した少女は、その大きく開いた窓から覗く二人の女神を肴に、ただ黙々と小さな杯を傾けて行く……。
 そう、ただ黙々と杯を重ねるのみで有った。

 しかし、杯を重ねて居ても、その憂いを帯びた蒼き瞳に酔いの兆候を見せる事はなく、その薄い唇には、彼女の口にする救世主の血と称される飲み物ほどの色素を感じさせる事もない。
 煌々と照らし続ける月の明かりに夜の属性に相応しいその表情を向け、黙々と俺の注ぐ紅き液体を咽喉へと流し込んで行く。

「素直におめでとうと言うべきなのかな」

 俺は、空に成り、窓枠の部分で月の明かりを反射していたグラスにワインを注いだ。
 グラスの半分を目処に注がれたワインが月の明かりを受けて、より幻想的な色合いと、ワイン独特の芳醇と言われる香りが僅かに鼻腔をくすぐる。

 そう。東薔薇騎士団クーデターも無事解決した後の八月(ニイドの月)にガリア王家から発表された内容に因り、タバサの置かれている状況は大きく動く事と成った。

 それまで、巻狩りの最中の不幸な事故に因る死亡と発表されていたオルレアン大公の死因が、実は暗殺で有った事が発表されたのだ。
 あの時、オルレアン大公は、ガリア国内の一地方。俺の感覚で言うとスペインのバスク地方を中心とする地域のクーデター計画を察知して、巻狩りの最中に兄王へと報告を試み、しかし、敵に察知され……。

 そして、同時に、その敵と言う存在の名前も発表された。
 それは、レコンキスタ。スペイン語では国土の回復を意味する言葉は、このハルケギニア世界でも、同様の地方で通じる独自の言語として存在しています。

 確かに、英語圏で有るアルビオンの組織に、何故スペインの国土回復運動と言う意味の名前が付けられているのか謎でしたが、元々のそのレコンキスタ発祥の地が、現在、ガリアに統治されているスペインならば合点が行きますか。
 まして、東薔薇騎士団々長ドートヴィエイユの家系は、元々ガスコーニュ地方の出身で、更にアルビオンでも子爵位を持って居たはずですからね。

 尚、国土回復
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