第一幕その三
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第一幕その三
「だからだ。いいな」
「わかりました」
スタッフもその言葉に真剣な顔で頷く。
「それでは」
「うん、御呼びしてくれ」
スタッフを呼びに行かせる。男爵はあれこれと周りに指示を出して場を整えさせる。四国の者達はなおもあれこれと話をしていた。
「そういえば貴国は公国にかなりのODAを」
「貴国は援助を」
日中の外交官同士が言い合う。
「貴国は帝政の頃から縁がおありで」
「貴国はロビイストで公国の方が多いとか」
今度は米露が。日米でも日露でも米中でも中露でもそれぞれ言い合う。大国である彼等は公国と何だかんだで関係があるようである。実は彼等がここに来ている理由はそれなのだ。
「あの四国に注意してくれ給え」
男爵はそtっと秘書に囁く。
「グラヴァリ夫人の財産を狙っているから」
「援助の代金としてですか」
「そうだ」
男爵は秘書に答える。
「日本はある程度で済ませてくれるだろうが後の三国はな。丸々持って行かれると」
「それは大変です」
秘書はそれを聞いて顔を顰めさせる。
「そういえばオーストリアの方はここにはおられませんな」
「かわりにあの四国だ」
「迷惑な話です」
「だからだ。いいね」
真剣な顔で秘書に囁く。
「間違っても夫人をあの四人の誰かに渡さないように。さもないと我が国は破産だ」
「わかりました」
どうやら夫人の財産は公国を左右する程のものであるらしい。だからこそ男爵はそれの確保に躍起になっているのだ。当然四国も。彼等は彼等で事情があるのだ。
「それでは皆さん」
日本の外交官が言う。彼が音頭を取り三人がそれに応える。
「はい、伊藤さん」
「宜しいですかな、マックリーフさん」
「はい」
アメリカの外交官が頷く。
「李さん」
「ええ」
今度は中国の外交官が。
「グリーニスキーさんも」
「約束は守りますぞ」
ロシアの外交官が答える。その後で日本人はまた音頭を取るのだった。
「はい、それでは抜け駆けはなしで」
「勝利者が類稀なる未亡人と」
「財産を祖国にもたらし」
「それを公国との友好の証とする」
随分と虫のいい友好の証だが彼等は本気だった。そこにスラブ風のドレスを着た長身で気品のある顔立ちの美女がやってきた。
「グラヴァリ伯爵夫人が来られました」
「おおっ」
彼等はその夫人を見て感嘆の声をあげる。青い目は湖の如く澄んで黄金色の髪は黄金をそのまま溶かしたようであった。気品のある顔立ちはその生まれを感じさせスラブ風のその白いドレスが実によく似合っていた。四国の外交官達は彼女を見て思わず近寄ってきた。
「何とお美しい」
「これはまた」
「有り難うございます」
流麗なフランス語で挨拶を返す。その笑みもまた気品のあるもので
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