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くらいくらい電子の森に・・・
第二十章
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「…柚木ちゃんは、ここで待っててもいいんだからな」
紺野さんが、後ろに続く柚木に声を掛けた。柚木は軽く首を振った。
「かぼすがやってくれた事、無駄にしたくないもん…」
2階はさっきよりも静まり返っていた。動ける患者は息を潜め、瀕死の患者は息絶えてしまったようだ。…いや、それだけじゃない。
全ての医療機器の動きが、ふっつりと途絶えていた。
「…気がついたのかな、僕らに」
「『何か』が紛れ込んだことは、察知されただろうな」
紺野さんの首筋を、汗が伝うのが見えた。院内はますます冷えていく一方だというのに。
「何か、してくると思うか」
「院内のセキュリティは、赤外線監視システムを採用しているようです」
ハルの硬質な声が、紺野さんのポケットから漏れた。
「私たちの位置は、比較的正確に把握されるでしょう」
「比較的?」
「ビアンキは院内のシステムを侵食するにあたり、正しい手順を踏んでいません。複数のプログラム言語を二進数に還元して統一させているのです。ですからリアルタイムでの情報把握が多少困難となります」
「…なるほど」
「どういうこと?全然分からないんだけど」
割り込んでみると、紺野さんが少し考えるような顔をしてから、僕に視線を戻した。
「強引にシステムを乗っ取ったから、プログラム言語が統一されてないんだよ。そもそもビアンキは、システムを制御するために作られたソフトじゃないからな。乗っ取ったはいいが、上手な制御の仕方が分からないんだろう。だからあの子は言語をバラしてバラして0と1にまで還元して、それで無理やりシステムを動かしてるってことだ」
「それだと、どうなるの」
「効率が悪い。だから俺達の正確な位置を把握するまでに、少しだけどタイムラグが生じるんだ。…つっても、気休め程度だけどな。…少なくとも『レーザーメスで狙い撃ち!』とかそんな技は使えない」
そう言って、眉をしかめて荒れ果てた廊下を見渡した。
「…動かない患者ばかりが殺傷されているのも、そこに理由があるんだろう」
「じゃ、動いていれば問題ないのね?」
柚木がわずかに顔を上げた。
「俺達の目的がシステム制御室にあることがバレてなければな」
紺野さんの言葉が終わるか終わらないかの瞬間、背後で重々しい鉄扉が閉じられるような音が響いた。僕らは弾かれるように振り向いたが、その時はもう遅かった。
「防火シャッターが…!!」
「閉じ込められたか。…こりゃ、目的地もバレてるな」
紺野さんが喉を鳴らす音が聞こえた。
「これじゃ私たち、進むしかないじゃん」
柚木が泣き笑いみたいな顔をした。
「ちょっとは逃げ道、残してよね。子供の喧嘩じゃないんだから」
どんな顔していいのか分からず、僕も泣き笑いの表情を浮かべてみる。

――ビアンキ。今、僕たちのこと、どこかで見てる
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