第二十章
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ような音がしたけれど、構っていられない。素早くシャッターの下に潜り込んで足を抜くと、何かが砕ける音と共にシャッターが完全に降りた。辺りに、青い破片が飛び散っている。…壊れたプラスチックの屑篭…のようだ。これが偶然クッションになって、一時的にシャッターの降下が止まり、僕は助かったみたいだ。
「…やった…!」
口元が笑顔の形に引きつるのを、止められない。…やった…やってやった…
シャッターから逃れてその上、あの伊佐木を置き去りにしてやった。
「柚木の、仇だ…!!」
「…なにが仇よ…」
シャッターに手をあてて俯いていた八幡が、低く呟いた。
「あの人が助けてくれたのに…!」
「……え?」
「伊佐木さんが屑篭を押し込んで、シャッターを止めてくれたのよ!!」
八幡が顔を上げた。さっきから泣きっぱなしでくしゃくしゃになった顔を、さらにくしゃくしゃにして、八幡が叫んだ。
――何がなんだか分からない。なんで伊佐木が、僕を命懸けで…!?
「…紺野さんとの、最期の約束だったんです…姶良さんに、徹底的に嫌われろって…」
防火シャッターに寄り添うようにして、八幡がしゃくりあげた。
「姶良さんはお人好しなところがあるから…心から嫌った相手にしか、冷酷にできないだろうから…徹底的に嫌われて、なにかあったら躊躇なく、伊佐木さんを捨て駒にして逃げ切れるようにって…」
「……そんな……」
「君が種明かしをしては、意味がないだろう、八幡君」
シャッターの向こうから、ため息混じりの声が聞こえた。
「だいいち、半分は憂さ晴らしみたいなものさ」
「伊佐木さん!」
「…どうにも、冷えるね。それに、頭が割れるように痛い。冷やされているだけではなく、防火シャッターで密閉した上で、空調を使って気圧を下げられているようだ。この急速な冷えは、そのせいだね」
朗々とした声…。
「…どうして、あんたが紺野さんとの約束を…?」
「会社の名誉、利益を守るためだよ。紺野君の提案は、その目的に実によく合致した。だからこそ、私に君の事を託したのだろうね」
「だから、どうしてだよ!会社の名誉!?…そんなもののために、自分が死んだらイミなんてないじゃないか!!」
「会社の名誉、か。…いや、妻の、名誉かな」
次第に細くなっていく声を大事に温存しながら、伊佐木は短い話を始めた。
――学生時代に、将来を誓い合った女が居た。
彼女が、ある企業の令嬢だと知ったのは、交際を始めて、しばらく時を経た頃だったよ。幸い、彼女の父親には、彼女を政略結婚の道具にするような心積もりはなかった。私達の自由恋愛は認められ、私は…その企業に入社し、やがて彼女を娶った。
――営業部に配属された私が、大きな契約をまとめるたびに、妻は喜んでくれた。
会社が繁栄するたびに、妻は笑顔を見
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