第二十章
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答えろ」
冷たい金属のような声と共に、背中に硬いものが押しあてられた。バチッと何かが弾けるような音が聞こえた瞬間、背中がのけぞるような激痛が体中を駆け巡った。
「痛っ…!」
「伊佐木さんっ!!」
八幡の悲鳴が、いやに遠くに聞こえた。一瞬意識が飛びかけたけれど、八幡が僕を受け止めた気配を感じて、ぐっと踏みとどまる。
「スタンガンなんて…やりすぎです!」
「ビアンキを停止するのに、五体満足でいる必要は、ないだろう。…君が不愉快な態度にでるなら、容赦はしない」
――もう絶対に許さない。
咳き込みながら伊佐木を睨み上げた。出来損ないの泥人形でも見下ろすような、無機的な表情で伊佐木は続けた。
「システム制御室は、この奥、だね」
噛んで含めるように、もう一度ゆっくりと繰り返した。
「…そうだ」
伊佐木は満足げに微笑んだ。…目の前が真っ赤になるほど、悔しかった。脳の中で、口の中で、何度も小さく繰り返した。殺してやる、絶対に殺してやる。
「八幡君、一番前を歩きなさい。この子に死なれては困るからね」
「はい」
短く答えると、八幡は先頭を歩き出した。無理に前に出ようとしたら、八幡に押し戻された。
「…分かってください」
声がかすれていた。…あんた、分かってるのか。僕を殺すわけにはいかないから、なにか起きたら先に死ねと、面と向かって言われたのに。
「…それで、いいのかよ」
「はい…」
踵を返して歩き始めた八幡の、表情は見えない。どうせ殉教者みたいな顔で、遠くを見つめているんだろう。…もう、どうでもいい。こんな男の為に死にたければ死ねばいい。
「――なんか、寒いですね」
口の端から白い息をこぼしながら、八幡が呟いた。同意するのも面倒なので黙っていると、天井や壁の至る所から、軋るような音が響き始めた。
「そうだね。…異常なくらい、冷えるね」
伊佐木が、ゆっくりと同意した。…その頃には僕も、この異常な冷え方に気がついていた。これは単なる冬の冷え込みじゃない。突然冷凍庫に放り込まれたような、不自然な…
「…次の防火シャッターは、どこだね」
「は、はい、もう少し先に」「いかん、走れ!今すぐだ!!」
伊佐木が鋭い声で号令を下した。同時に、5〜6m先の防火シャッターが轟音をたてて降り始めた。八幡が弾かれるように走り出す。僕もつられて後を追った。シャッターは既に、半分以上降りていた。ギリギリで滑り込んだ八幡が、だいぶ細くなったシャッターの隙間から手を伸ばしている。
「姶良さん、早く!」
八幡の手を掴んだ瞬間、激しく後悔した。…シャッターの降りるスピードが早過ぎる。このまま下に滑り込めば、確実にこの重いシャッターに胴を挟まれて潰される…手を振りほどこうとした時、シャッターの降下がぴたりと止まった。
「今です、早く!!」
真横で何かが軋む
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