第二十章
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「もう、やめて下さい…」
「あんた…これから死ぬ人に、なんでそこまで!!」
「私はね、君」
かつん、と再びカップを置く音がした。
「嫌いなんだよ、あの男が」
笑い皺に隠されていた瞳が、一瞬陰険な光を放った
。
「…嫌い?」
「君にも、あるだろう?なんとなく嫌い、という感覚。私のも、それだとしか言いようがない」
――そうじゃない。
なんであんたが僕に好き嫌いを語る?
あんたは、感情を信用しないんじゃなかったのか!?
「だからこそ、あの男の無念な死に様も実に、痛快。…溜飲が下がる思いだよ」
「…いい加減にしろよ」
「もうやめて下さいったら…!」
立ち上がりかけた僕の背中に、八幡が飛びついた。
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「離せ!」
「い…今そんなことしてる場合じゃありません!つ、次の防火シャッターだっていつ閉まるか…とにかく、ここを出ないと!」
「…忌々しい」
空になったカップを勢いよく机に叩きつけ、伊佐木が立ち上がった。そして八幡に羽交い絞めにされている僕の襟首を掴み、強引に引き上げた。
「今も、考えている最中だよ。如何にわが社の利益を損ねることなく、紺野君との最期の約束を、違えてやろうか。とね」
そして、明らかに今までとちがう歪んだ微笑を口元に浮かべた。
「…たとえば事が済んだあと、君を殺して烏崎の横にでも、並べておこうか」
「…その前に、僕があんたを殺してやる」
どのくらい睨み合っていたのか、分からない。八幡に引きずられるようにして部屋を出ながらも、僕はこの最低な男から目を離せなかった。…殺してやる。初めて誰かに殺意を抱いた。あの夜の烏崎にすら抱くことはなかった、胃が灼けつくような、鋭い殺意。
――僕ですら、人を殺そうなんて思うんだ。
「私を殺そうとするのは、構わないよ。…皮肉だね。その雑念が、紺野君の最期の頼みを妨げることに、なるかもしれないとはね」
「…言われなくても分かってる。あんたを殺すのは、全部終わったあとだ」
「お願い、辛いのは分かります!だけどもう…」
「あんたさぁ」
八幡の手を振り払った。…今は伊佐木よりも、八幡にイラついた。
「…え?」
「なにが分かるんだ?…あんたの大事な人は、無事に隣にいるんだろう」
「そ、それは…」
言葉尻を濁して、俯いてしまった。…ほら、見たことか。
「全部終わるまでは何もしないよ」
そう、全部終わるまでは。『その時』になってようやく、あんたも僕の気持ちが分かるだろう。大事な人を理不尽にもぎ取られる気持ちが。
――そしてあんたも、僕が伊佐木に向けたのと同じ殺意を、僕に向けるんだろう。
「で、システム制御室とやらは、この奥で間違いないのだね」
僕のほうを見ようともせず、伊佐木が呟いた。
「………」
「質問に、
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