第二幕その六
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第二幕その六
「下世話なものです。カミーユさんが人妻に言い寄っていまして」
「ふん」
「その相手が誰か確かめてみようと。こうやって」
扉を指差す。そこの鍵穴から覗き見るつもりなのだ。
「確かめてみます」
「確かにあまり褒められたことじゃないね」
ダニロもそれに対してはこう言う。
「どうにも。しかし」
「はい」
「それも外交の一つだからね、弱みを握るのも」
「そういうことになります。おや」
ここで男爵は覗き見ながら声をあげた。
「これは」
「どうかしたのかい?」
「何か何処かで見た奥方です」
「公国の誰かかな」
「そのようです。けしからんことですな」
急に口を尖らせてきた。
「我が国の女がフランス男に篭絡されるなぞ。いや全く」
「しかも人妻だよね」
「そうです」
上司の言葉に頷く。相変わらず鍵穴から部屋の中を覗き込みながら。
「全く以ってけしからん」
「それで誰なのかな」
「むっ、あのドレスは確か」
ここであることに気付いた。
「あれは」
「誰のものかわかったのかい?」
「私の妻のものです。ということは」
「男爵、それは若しかして」
ダニロは自分の前で覗き続けている男爵に対して尋ねてきた。
「卿の奥方が」
「そんな馬鹿な、こんなことが」
「けれど卿の奥方はドレスを他の人に貸すような方かい?」
「いえ」
その言葉には首を横に振る。
「そんなことはありません」
「それでは間違いないんじゃないかな」
「しかしカミーユ氏が見えません」
「逃げたのかも」
「いや、隠れているのです」
きっとした顔で鍵穴から顔を離して立ち上がる。そうしておもむろに扉を開けた。
するとそこにいたのは何とハンナとカミーユであったのだ。
「あれっ!?」
「これは一体」
ダニロと男爵は部屋の中の二人を見て目を丸くさせた。
「妻は何処に」
「奥様、どうして貴女が」
「何でもありませんわ」
ハンナは何気なくを装ってこう言ってきた。
「何でも」
「そんなわけがあるのかな」
何故か、男爵とカミーユにはそう思えるものでダニロはハンナに不機嫌な顔を見せてきた。
「果たして」
「何が仰りたいのですか?」
「いや、別に」
剣呑な調子でそれには答えない。
「ただね。どうも」
「言いたいことがおありでしたら仰っては?」
ハンナもムットした顔で言い返してきた。
「お互いにとってよくありませんわよ」
「それは詭弁ですな」
しかしダニロも負けてはいない。こう言うのだった。
「それは」
「では私の妻ではないと」
「ええ、そうです」
男爵にカミーユが慌てて相槌を打ってきた。
「ですから」
「まあ私の妻でなければよい・・・・・・というわけでもない」
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