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領主は大変
第十章
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「何っ、塔の屋上の部屋から出てか」
「はい、カーテンを綱にしてです」
「お傍の侍女に助けられて」
「そのうえで塔を出られて馬で、です」
「修道院に入ってしまいました」
 辺境伯領内の修道院にだというのだ。
 領内である、だがだった。
「まずいです、教会の場所に入られました」
「迂闊には連れ戻せません」
「ここはどうされますか」
「一体」
「教会と話をしよう」
 伯爵は深刻な顔で家臣達に告げた。
「そして何とかだ」
「イゾルデ様を連れ戻し」
「そのうえで」
「縁談はもう決まったのだ」
 このことはもう絶対だった。
「だからだ」
「ではすぐにですね」
「イゾルデ様を連れ戻しましょう」
「そして縁談を進めましょう」
「何としても」
「まさかイゾルデがそこまでするとは思わなかった」 
 伯爵にしても想定の範囲外だった。だからこそ今は普段以上に困っていた。
「活発と言うかお転婆というかな」
「はい、侍女もいますし」
「中々困った方ですね」
「そんな娘だから簡単には連れ戻せないだろう」
 このことはもう想定の範囲内だった。こちらはだ。
「ではだ」
「はい、それでは」
「教会に寄付をしてですね」
 聞こえはいいが要するに賄賂だ。それで修道院も篭絡というか懐柔をしてイゾルデを連れ戻すことに協力させようというのだ。
 これも政治だった。伯爵はすぐにそれを実行に移そうとした。 
 だがまさにその瞬間だった、彼のところにとんでもない報告が来た。
「何っ、皇帝陛下がか」
「はい、崩御されました」
 男爵が沈痛な面持ちで伯爵に報告する。
「数日前にとのことです」
「それはいかん。すぐに領内を喪に服させよ」 
 伯爵は即座に領内での対応を命じた。
 そしてそれだけではない、彼は自分自身のことも言った。
「私は帝都に向かう」
「そして、ですね」
「そのうえで」
「そうだ、葬儀に参加しなくてはならない」
 辺境伯としてそれなりの地位にある、だからだった。
「すぐに行って来る」
「ですが伯爵」 
 家臣の一人が血相を変えて立ち上がっていた伯爵に問うた。
「イゾルデ様のことは」
「そのことか」
「一刻も早く連れ戻さなければなりません」
「葬儀に参加してすぐに戻る」
 伯爵はこう彼等に答えた。
「だから今はだ」
「我々で、ですか」
「何とかせよと」
「頼む、寄付は弾め」
 財政は辛いがそうしていいというのだ。
「話が話だからな」
「わかりました」
「それでは」
「すぐに向かう」
 イゾルデのことも気になるが皇帝の葬儀への参列はそれ以上のことだった。ここで出席しなければそれこそ伯爵家の名声は落ち下手をすればそれを口実に領地を削られかねない。
 だから出るしかなかった、
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