第四章
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「高校生が最初に覚えるっていうか」
「そんなボールやな」
「けれどそれも極めればですか」
「魔球になるんや」
それこそ誰も打てないまでのだ。
「そういうこっちゃ。極めることや」
「どんなボールでもですね」
「それで魔球になるものなんや」
これが野村の言うことだった。そして彼自身が実際にキャッチャーボックスに入ってそのうえで伊藤のボール、高速スライダーを受けてみた、
ボールは左から右にベースを横切る、いやそれを超える曲がり方であった。野村も危うく獲りそこねるまでだった。
何とかボールを獲ってそれで言うのだった。
「球種こそ違うけどスギに匹敵するで」
「そしてこの高速スライダーで」
「優勝するで、ええな」
「わかりました」
伊藤は野村に肩をぽんぽんと優しく叩かれながら応えた。そうしてだった。
ヤクルトは伊東が入団した九十三年見事優勝した、自称球界の盟主なぞ所詮は烏合の衆でしかなかった。
野村は監督という仕事を完全に辞めてからこんなことも言った。
「どんなボールでも極めたら魔球jになるんや」
「その稲尾さんや杉浦さんみたいにですね」
「そして伊藤さんみたいに」
「そや、そして真の魔球はや」
それは何かも言う。
「チームを優勝させるんや」
「そういえば伊藤さんもでしたね」
「チームを優勝に導きましたね」
「佐々木もそやったしな」
佐々木主浩だ。横浜ベイスターズのストッパー、大魔神とさえ呼ばれていた。
「フォークやったやろ」
「あの人のフォークもそうでしたね」
「打とうと思っても打てませんでしたね」
「あのフォークも」
「それで優勝したやろ。ほんまの魔球はそれがあるだけで優勝出来るんや」
普通のボールを極めてそれでだというのだ。
「何でも普通、それを極めることやな」
「ですか、それからですか」
「そういうことなんですね」
周りも野村の言葉を聞いて頷いた、それは野球を誰よりも知る者の言葉だからだ。
俗に言う魔球は案外普通かも知れない、だがその普通のボールを極めれば魔球になりそれがチームに至上の美酒をもたらす、考えてみれば凄いことである。
魔球 完
2012・11・29
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