第一章
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訪問客
間宮高雅と小百合は結婚したての夫婦だ、新婚で幸せに包まれているが二人共まだ新入社員なので金はあまりない。
どちらかの実家で住む方法もあったが二人暮らしがしたかった、それで安いアパートの部屋を探していた。その日も不動産屋であれこれ物件を聞いていた。
不動産屋のおじさんは色々と物件を見せる、その中でこう言うのだった。
「まあいい物件はありますけれどね」
「何分お金がなくて」
「それで困ってるんです」
黒い髪の横を短くして上だけ伸ばしている眼鏡の青年と長い黒髪を後ろで束ねた垂れ目で大きな唇の女性が難しい顔で答える。二人共ラフなズボンとセーターといった格好だ。
その二人が太ったおじさんに言うのだ。
「確かにいい物件は多いですけれど」
「それでも」
「もう一声ですね」
おじさんも二人の言葉を察して言う。
「そうなんですね」
「はい、何かありますか?」
「どんなのでもいいですから」
「どんなのといいますとね」
おじさんは難しい顔で二人に答えた。
「一つあるにはあります」
「あるには、っていいますと」
「ひょっとして」
「これですよ」
おじさんは手を幽霊の構えにしてみせた、これが返事だった。
「いや、本当に」
「出るんですね」
「そうした場所なんですね」
「はい、とにかく安い物件なんで皆さん話を出したら買ってくれるんです」
おじさんにとってもそれはいいことだった。物件が売れて悪いことはない。
「それでも皆さんすぐに出られて」
「出るからですか」
「それで」
「何が出るかはわからないんです」
「あれっ、買った人から話は聞いてないんですか?」
「何が出るかは」
「皆さん見たものを何も仰らず逃げ去って行かれるので」
それでだというのだ。
「私も知らないんですよ、ただ」
「ただ?」
「ただっていいますと」
「その物件では殺人事件だの心中だのはなかったんですよ」
そうした話はなかったというのだ。
「私も最初はいい物件だと思ったんですがね」
「それが、ですか」
「どの人も」」118
「皆さん逃げられて。いや、確かに安いけれどいいんですか?」
おじさんはまた二人に問うた。
「ここで」
「安いですからね」
「マンションの部屋で家賃二万ですか」
「はい、そうです」
そのあまりもの端郭の値段は事実だった。
「敷金礼金もその物件ではありません」
「そうですか。それじゃあ」
「それでお願いします」
「何があっても知りませんよ」
こう前置きするおじさんだった。
「いや、本当に」
「何か凄い念入りですけれど」
「そこまで凄いんですか、このお部屋」
「ですから皆さん逃げられてるんですよ」
おじさんが
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