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第一章
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                    癖
 まずは調べてからだった。
 最初に言葉だ。
「覚えたな」
「はい」
 彼、アンドレオビッチ=コズイネン中尉は確かな顔で教官の問いに答えた。
「この国の言葉は」
「何よりだ。しかしだ」
「はい、この国の文字は一種類ではないのですね」
「日本語はそうだ」
 中尉が向かうのは日本だ。そこに潜り込んで情報収集及び要人の篭絡がその任務だ、しかしだったのである。 
 中尉はその日本語で喋りながら教官に述べた。
「平仮名だけでなく」
「漢字や片仮名もある」
「三つもあるんですね」
「日本語はそうだ」
「変わった語学ですね」
 中尉はアジア系にしか見えない顔立ち、スモレンスク生まれの筈だが黒い髪と目、彫の浅い顔立ちに低い鼻、そしてアジア系に近い肌の色の貌を少し顰めさせて言った。見れば背もあまり高くなく髭も薄い。完全にアジア系の雰囲気だ。
 その彼がこう言うのだ。
「中国語やヒンズー語とも違いますね」
「だからこそ難しい」
 教官は険しい顔で述べる。
「学ぶことはな」
「そして身に着けることも」
「だが君はそれを完璧に出来た」
「はい」
 中尉は確かな顔で答える。
「そうさせてもらいました」
「ではだ」
「次はですね」
「日本の風俗習慣を知ってもらう」
 そして身に着けてもらうというのだ。
「そうしてもらう」
「わかりました。それでは」
「日本は風俗習慣も独特だ」
 独特であるのは文字だけではないというのだ。
「それこそ風呂の入り方も違う」
「日本では湯の風呂が主でしたね」
「サウナもあるがな」
 ソ連、この当時はこの名前だったがこの国では風呂といえばサウナなのだ。だが、だった。
「日本では湯だ」
「まずそこが違いますね」
「その他にも色々とある。とにかくだ」
「日本の風俗習慣も身に着けて」
「行ってもらう。しかしだ」
「しかしとは?」
「日本人は風呂好きだ」
 教官は風呂の話が出たところで彼等のこのことも話した。
「例外もいるが大抵の日本人はそうだ」
「風呂好きですか」
「だからサウナもある。君の好きな、な」
「それは有り難いですね。ではサウナを楽しみながら日本で仕事をしてきます」
「既に身分も用意した」 
 無論偽造の身分だ。
「あちらの野党や知識人に協力してもらった」
「それで、ですね」
「君は日本では野党の国会議員前原尚吾の秘書大神浩一郎だ」 
 それが彼の日本での名前だというのだ。
「経歴も作ってある。戸籍も偽造したが偽造は偽造だ」
「そうした人間はいませんね」
「そうだ、いない」
 拉致はしていない、そもそも最初からいない人間に成りすまして日本に潜入するというのである。そしてその手配も整えたというの
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