第三章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後
「僅かなミスも許されない」
「この録音は特別な録音になるよ」
「あらゆることに注意を払い最初から最後まで進める」
「一瞬も気を抜かないよ」
こう言ってそのうえで録音を行った、何度も何度もミスを訂正しよりよい歌に演奏を目指し一度よしとなってもすぐにだった。
「駄目だな」
「はい」
モナコはカラヤンのその言葉に頷いた、その歌にノンが来たのだ。
「ではもう一度ですね」
「そう、頼む」
「今ので駄目か」
「スカラ座だったら拍手万雷だよ、今の歌は」
あまりにも難しいスカラ座の奥座敷の客達もブラボーと叫ぶ程の歌でも駄目だった、周りもこれには驚いた。、
「凄いな、これは」
「ああ、今回の録音は本当に違う」
「マエストロは本気だぞ」
「モナコさんもな」
「これは絶対に凄い盤になるぞ」
「恐ろしい位にな」
関わっている誰もがそう確信した、そしてだった。
その録音が終わり実際の音楽を聴いて誰もが驚いて言った。
「これは凄いな」
「こんなオテロは聴いたことがない」
「最高のオテロだな」
「ああ、本当にな」
カラヤンの指揮もモナコの歌も桁違いだった、ウィーンの演奏も他の歌手の歌唱も何もかもが完璧だった。
そのギリシア悲劇の様な演奏を聴き終えて誰もが唸った、そして皆こう言った。
「このオテロを超えるものはない」
「トスカニーニのオテロに続く奇跡だ」
「カラヤンは奇跡を残した」
「モナコ以上のオテロは二度と出ない」
誰もが言う、それはまさに最高のオテロだった。
これを超えるオテロは最早出ないだろうという評価にカラヤン自身も言った。
「そのつもりで残した、私の最高の仕事の一つだ」
「そうですね、これは」
「最早最高の芸術です」
「このオテロを超えるものは出ないだろう」
静かな自信を以ての言葉だった、しかし。
カラヤンのこの録音から数十年経ちここである指揮者がパリで言った。
アジア系の指揮者だ、チョン=ミュンフンという。チョンは静かに周囲に漏らした。
「ドミンゴがいれば」
「まさか彼をオテロにして」
「そして演奏を残されますか」
「若しかしたらカラヤンの録音を超えられるかも知れない」
カラヤンとは違い自信ではなく望みを出した言葉だった。
「彼がいてくれれば」
「ではドミンゴさんに声をかけますか」
「そうされますか」
「彼ならやってくれるよ」
チョンは言う。
「必ずね。だから」
「はい、ドミンゴさんに連絡を取ります」
「それでは」
こうしてチョンはドミンゴに声をかけた、そして彼もまた世紀の名盤、オテロの心に寄り添い彼の苦しんだ魂を鎮魂する演奏を残した。
作者の手にはこの二つのオテロがある、カラヤンの演奏とチョンの演奏のどちらがいいかというと答えられない。
[8]前話 [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ