暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
ALO
〜妖精郷と魔法の歌劇〜
帰還………そして旅立ち
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ドが延びている。コードを追っていくと、左上方で銀色の支柱に吊るされた透明なパックに繋がっている。パックにはオレンジ色の液体が七割がた溜まっており、下部のコックから滴が一定のリズムで落下している。

体の横に投げ出したままの左手を動かし、感触を探ってみた。

すると、自分が横たわっているのは、どうやら密度の高いジェル素材のベッドらしい。体温よりやや低い、ひんやりと濡れたような感触が伝わってくる。

自分、小日向蓮は全裸でその上に寝ている、と言うわけだ。………考えてみたら、凄いシュールな図である。

視線を周囲に向けてみる。小さい部屋だ。壁は天井と同じオフホワイト。

右手には大きな窓があり、白いカーテンが下がっている。その向こうを見ることはできないが、陽光と思われる黄色がかった光が布地を透かして差し込んできている。

ジェルベッドの左手奥には金属製のワゴントレイがあり、籐の籠が載っかっている。籠には控えめな色彩の花が大きな束で生けられており、甘い匂いの元はこれらしい。

ワゴンの置くには四角いドア。閉じられていたそれを見つめていると、唐突にそれが開く。その向こうから出てきたのは、真っ黒な革ジャンを着た暴走族の(ヘッド)にしか見えない男。

「………深瀬(ふかせ)おじさん」

「よっ!やっと起きたか」

約二年ぶりだというのに相変わらずのペースの、職業が画家で属性がヤンキーの男、深瀬明(ふかせあきら)はからからと笑った。漂ってくるヤニ臭い匂いは、涙が出そうなくらい懐かしい。

傍らに置いてある花束を画家は一瞥してあぁ、と言った。

「これは華子が置いてったもんだ。皆心配してるぜぇ?ま、赤坂とかは相変わらずだったがな」

ぽんぽん出てくる懐かしい名前に、蓮は思わず笑顔になる。そして、画家の言うことで否応なく一つのことが判った。

つまりここは───元の世界だ。

二年前に旅立ち、もう戻ることはあるまいと思っていた、現実の世界。

現実の世界。

その言葉が意味するところを理解するのに、時間が掛かった。

蓮にとっては、長い間あの剣と戦闘の世界だけが唯一の現実だった。その世界がすでに存在せず、自分がもうそこに居ないのだということがなかなか信じられない。

では、自分は還ってきたのだ。

───そう思っても、さしたる感慨や喜びは湧いてこなかった。ただ戸惑いと、僅かな喪失感を覚えるのみだ。

ナースコール押すぞー、という画家の言葉は完全に無視し、蓮は一人考える。

そうだ。僕はあのゲームをクリアした。ラスボスであるヒースクリフ、茅場晶彦を倒したのだから。

だから───僕はあのまま消えても満足だった。白熱する光の中で、分解し、蒸発し、世界と溶け合い、彼女と一つに───


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