第一幕その一
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やかでさえある。隣の長身で黄金色に青い目を持つしっかりとした印象の男にエスコートされた彼女の名はジュリエット、父でありこの家の当主でもあるキャブレット卿に連れられて舞踏会に姿を現わしたのである。
「おお」
「閣下」
来客達は彼の姿を見て一斉に仮面を外した。そして道を開けて一礼した。
「ようこそ、我が家へ」
キャブレット卿はジュリエットを横に置いて客達に挨拶をした。顎鬚が勇ましい。
「来て頂き何と御礼を申し上げてよいかわかりません。娘も喜んでおります」
「まことに感謝の念に耐えません」
ジュリエットは頭を垂れてこう述べた。
「今宵は我が家に来て頂き有り難うございます」
澄んだ、宝石を転がす様な美しい声である。その容姿に相応しい声であった。
「今宵はどうか楽しんで下さい。美酒と、そして音楽に」
「音楽に!?」
「ええ。美しい曲が私達を待っています」
彼女は言う。
「さあ、こちらへ」
楽器を持った男達が部屋の奥に現われた。そして曲を奏ではじめた。
それはそこにいた者達が誰も聴いたことのないような流麗な曲であった。まるでジュリエットそのもののように美しい曲であった。
「この曲は」
「まるで花の様だ」
客達はその曲を耳にして口々に言う。
「さあ、曲だけではありませんぞ」
キャブレット卿が客達に対してまた笑顔を向けてきた。
「美酒もあれば」
「催しも」
道化師達がまた姿を現わす。
「さあ、また仮面を着けられよ」
「そして現世のことは忘れ騒ぎましょう」
「仮面を着ければそれで貴方ではなくなります」
「ですから」
「ジュリエット」
卿は娘の方に顔を向けた。優しい笑みであった。
「今日は楽しもうではないか」
「はい、お父様」
娘は父に対して優しい笑顔を向けて応えた。
「それでは皆さんで」
「そうだ。さあ皆さん」
卿はまた客達に顔を向けて挨拶をした。
「今宵は踊り、喜びを讃え合いましょう。若さを讃え、若き日に戻って」
若きも老いも存分に楽しんで欲しいということであった。
「踊らぬ方は美酒と美食を楽しまれよ。音楽もありますぞ」
「おおそれは」
「何と気前のよい」
「道化師達の催しもございます。私も若き日を思い出します」
と言っても彼はまだ四十であった。老いたというには少し若過ぎるが。
「その頃に戻り宴を楽しみましょう。それでは」
「ええ」
「キャブレット家に万歳!」
「キャブレット卿に幸あれ!」
皆口々に卿を讃える。彼はそれを受けながらジュリエットに顔を向けてきた。
「さあ、御前も楽しむのだ」
「お父様は」
「私も無論楽しませてもらう」
彼は満面に笑みを浮かべて娘に答えた。そこへ道化師達が卿とジュリエットの仮面を持って来る。卿の仮面は黒く厳し
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