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レンズ越しのセイレーン
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Report7 リノス
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ようやくユリウスを見上げた(そう)(ぼう)には、ひたむきに過ぎる――慕情。

 そのまなざしだけで、続きなど聞く必要はなかった。
 ユリウスは大きく一歩踏み出してユティとの距離を詰め、細すぎる腰を両腕で抱き寄せた。

「もういい。それ以上話さなくていい。君の優しさは充分伝わったから」

 二の腕に掴まる両手。ほとんど反るような恰好でユティはユリウスを見上げてきた。

「……ほんと、に? むりして言ってるんじゃ、ない?」
「してないよ。もう大丈夫だ」

 安心させるつもりで頬から髪を軽く撫でてやる。

「よかったぁ」

 ――極上の笑顔。ニ・アケリアで彼女が寝ぼけて自分を父親と間違えた時に浮かべた。

 そのまま胸板にすり寄る少女を抱きながら、ユリウスは一つの可能性に思い至る。

(まさかこの子は、俺の――)





 分史世界。
 あらゆる可能性を現実にしたパラレルワールド。無数の人々の選択によって分岐したIFの歴史。
 よって、人が想像しうるどのような事柄であれ成立していても不思議はない。

 想像しうる、どのような事柄であれ。
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