Report
Report7 リノス
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
「ああ」
そっけない返事。ユリウスはユティの手にある時歪の因子には目もくれず、「ルドガー」の死体の傍らに膝を突いた。泣くでもなく、触れるでもなく、ただ、見ていた。
「ルドガーは、アナタに何て?」
「何も。言いはしたが、あれは『俺』への言葉じゃなかった」
その言葉をよすがに、ユティは目を細めて頭に描いた。
「ルドガー」はユリウスではなく、彼にとっての「ユリウス」へ末期の息を捧げたのだ。
自らを刀で貫くユリウスには一瞥もくれずに。
ユリウスは「ルドガー」の死体の前で、存分にセンチメンタルに浸ってから、立ち上がった。
斜め後ろに立っていたユティの手には、時歪の因子である銀時計。さすが、抜かりがない。
しかし、妙だ。いつもの彼女なら呼ばれずとも時歪の因子を差し出すはずだ。それが、両手で銀時計を胸の谷間に押しつけたまま、佇んでいる。目は確かにユリウスを見ているのに。
「時歪の因子を渡してくれ」
あえて平坦に告げる。ユティは一瞬ためらいを浮かべたが、両手で銀時計を突き出した。
ユリウスは銀時計を受け取り、負荷の少ないクオーター骸殻に変身した。そして、時歪の因子を宙に放り投げ、一刀両断した。
こうしてまた、一つの天地が砕けて落ちた。
景色が戻る。夜のマクスバードには人がおらず、暗い海の波音だけが海停に谺していた。
GHSで時刻を確認する。行動しなければいけないのに、何故か思考は上滑りする。
(いい加減切り替えろ、ユリウス・ウィル・クルスニク。分史世界のルドガーを殺したのは初めてじゃないだろう。アレよりもっと幼い『ルドガー』を殺した時だってあるだろうが。100以上の分史世界を壊してきて、こんなありふれた任務で揺らぐなんてあるわけないんだ)
深呼吸ひとつ。行くぞ、とユティに声をかけて歩き出す。だが、ユティは付いて来ない。
もう一度呼びかけても、彼女は動かない。軽く苛立つ。
ユリウスは戻って、強引にでもユティを引っ張って行こうと手を伸ばし――
「もし、次の分史世界、アナタが時歪の因子だったなら、ワタシが殺すわ」
初めて、震える声を聴いた。
「次だけじゃない。その次も。次の次も。ずうっと」
初めて、震える拳を見た。
「アナタが『ルドガー』の死をぜんぶ自分のせいにするなら、『ユリウス』が死ぬ時は、ぜんぶワタシのせいにする。だから――」
続く言葉はない。ユティ自身、どう言っていいか分からず困り果てている。頬を赤らめ、くちびるを握りしめた手で隠し、外したかと思えば深く俯き。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ