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レンズ越しのセイレーン
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Report7 リノス
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とはずっと隠してたくせに”――

(俺がお前に秘密を持つことは、お前の人生を狂わせるほどに大きなことなのか?)

「お礼に」

 「ルドガー」は両ポケットから懐中時計を出して構えた。真鍮と、ボロボロになった銀。
 内、片方、銀時計のほうから時歪の因子(タイムファクター)の反応が溢れた。

 目を見開いて「ルドガー」は右手の銀時計を見やる。瞼をきつく瞑り、唇を噛みしめ。
 彼は泣きそうな顔で笑った。

「殺す。全力で、手加減なしで。遠慮なしに、容赦なしに。俺の手で、殺してやるよ、どこかの世界の兄さん」

 骸殻が発動する。山吹寄りの黒とイエローラインの呪いの殻。レベルはスリークオーター。ユリウスと同じ、他人の時計で力を水増ししている。

 「ルドガー」が槍を鋭く突き出した。ユリウスはとっさに後ろのユティの頭を乱暴に下げさせ、双刀の片方で槍の軌道を逸らした。

「ユリウスっ」
「そこにいろ! 俺がやる!」

 心はすでに固まっている。他でもない「ルドガー」だからこそ、自分以外に殺されるのは許せない。

 マクスバードは一瞬にして兄弟の戦場に変わった。



 ユティは埠頭に立ち、アーチの上で激戦をくり広げるユリウスと「ルドガー」を見上げていた。

 兄弟の闘争を見守り始めてどれほどの時間が過ぎただろう。何分? 何十分? 何時間?
 日は完全に沈みきり、辺りは闇一色。
 聞こえる音は彼らが刃を鳴らす音だけで、戦う姿は影法師。

 アーチの上で、槍と双刀がぶつかり合い、火花を散らしている。骨肉の喰らい合いは留まる所を知らず、血も飛び散ってくる。

(きっとあの人は、ルドガーに自分以外の干渉があるのが許せなくて、いつだって分史世界のルドガーだけは自分の手で殺してきたんだ。独占欲と変わらない、深い深い愛情で)

 手を出すな、とユリウスが言った以上、ユティにできることは何もない。ただ胸の前で両手を握り合わせた。

 ――やがて、ぼんやりと捉えていられた影法師の片方が、アーチから砂袋か土嚢のようにタイルに落ちた。ユティは急いで駆け寄る。ずっと上を向いていたからめまいがしたが、無視して走った。

 転がっていたのは「ルドガー」だった。開ききった瞳孔、上下しない胸板。頬に幾筋も残った、涙の跡。

(ユリウスでなくてよかった)

 間を置いて、ユティは「ルドガー」の脈が完全にないことを確認した。次に、死体の瞼を閉じさせ、口元の血を袖で拭い、両腕を胸板の上で交差させた。
 作業を終え、ユティは死体の近くに転がった二つの時計の内、銀時計のほうを拾った。

 横に2度目の落下音。今度は軽やかで、足音が続いた。ユリウスが骸殻を解きながら歩いて来ていた。

「お疲れ様。無事でよかった」

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