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Report7 リノス
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分史世界。
あらゆる可能性を現実にしたパラレルワールド。無数の人々の選択によって分岐したIFの歴史。
よって、人が想像しうるどのような事柄であれ成立していても不思議はない。
最初にこの分史世界に入って感じたのは、通行人の視線の奇妙さだった。
「ここのアナタは指名手配犯なのかしら」
「だとしたら遠巻きに見てないで、悲鳴を上げるか警察を呼ぶかくらいはされてるはずだ」
「確かに、そうね」
通行人の視線は、確かに畏怖の対象を見た時のそれだが、犯罪者に向けてというよりは、いるはずのない存在を糾弾するような。
時歪の因子を探して道を往けば往くほどに、トリグラフの住民の目は鋭さを増していった。だが、ユリウスは全く気にする様子もなく、GHSの偏差表示だけを見て歩いて行く。
(分史世界の人間が侵入者をどう思おうが関係はない。いずれは壊す世界だから。――そう教えてくれたよね、とーさま)
後ろを付いて行く。コンパスの長いユリウスに付いて行くとなるとユティは速く歩かねばならない。その差がもどかしかった。
ふと、ユリウスが立ち止まった。ユティも倣う。
ユリウスたちのマンションがある団地の広場前だった。
「反応が近づいてくる」
「動く物体で街中にいる。人間、決定」
ユリウスは舌打ちしてGHSの筐体を乱暴に畳み、ポケットに突っ込んだ。
「どこか」
ユティはポケットから抜かれた直後のユリウスの手を掴んだ。
「人気のない場所、見繕わなきゃね」
「――、ああ」
――そんな男と少女に近づく、青年、一人。
「兄さん!」
全く不意打ちに声をかけられて、ユリウスは何秒か呼吸の仕方を忘れた。
エラール街道方面から歩いてくるのはルドガー――この世界の「ルドガー・ウィル・クルスニク」だ。姿かたち、声、笑い方、何一つ本物のルドガーと変わらないのに。
時歪の因子の反応は「ルドガー」から噴き上げていた。
――その後は正直、どう話したか記憶は曖昧だ。
「ルドガー」がマクスバードに用があると言い、よかったら一緒に来ないかと誘ってきたので同意し、トリグラフ中央駅から列車でマクスバード中央駅まで一直線。
マクスバードに着く頃には日が陰り、駅を出ると、埠頭の露店は全て店じまいされていた。
「ルドガー」は駅舎を出るや、ユリウスたちに背を向けて階段を下りていく。ユリウスは自然の流れで「ルドガー」を追う。
「人に会う約束があると言ったな。こんなギリギリの時間……下手すると帰りの便がなくなるぞ」
「大丈夫だよ。そうなったら宿に泊まればいいんだから。それにこの時間帯じゃない
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