第二幕その一
[2/2]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
フランス語で彼女に声をかけていた。この時代はフランス語がどれだけ上手いかということが教養、文化の証とさえもみなされていた。それを考えるとこの公爵の教養はかなりのものであった。
「近頃どうされたのですか?」
鮮やかな青のドレスに白い仮面をつけたリーザに問う。彼女の仮面は上半分を隠しただけであった。下の口等はよく見えていた。それに対して公爵は顔全体を赤い仮面で覆っている。素顔は窺い知れないが声で心はわかった。
「いえ、別に」
公爵に顔を向けず俯いていた。
「何もありません」
「そうなのですか?」
「はい」
虚ろな声で答えた。
「ですから」
「わかりました。ですがこれは覚えておいて下さい」
公爵は語った。
「私は貴女のことを何よりも大事に思っているということを。貴女の心の友であり、僕であります」
「公爵・・・・・・」
その言葉を聞いて彼に顔を向けた。だが見はしなかった。
「しかし貴女の心を縛ったりはしません。貴女の為に」
何処までもリーザを大切に思っているからこその言葉であった。その優しさはおそらくゲルマンよりも上であろう。そして美しいものだった。
だが。リーザの心はもうゲルマンのものとなってしまっていた。彼女自身もどうすることもできないまでに彼を愛してしまっていたのだ。そう、どうすることもできないまでに。
「貴女との距離はわかっているつもりです。ですが貴女と共に悩み、哀しむことを誓います。そう、私の心の証として」
「有り難うございます」
公爵のそんな心が何よりも嬉しい。それでもリーザはゲルマンから離れられなくなっていた。天使よりも堕天使を選んでしまったのであった。
「公爵」
「はい」
ここで彼を呼ぶ声がした。
「こちらにおられたのですか」
「ええ、何か」
「お話したいことがありまして」
「何でしょうか」
「陛下のことで」
「陛下の」
かっては女帝の愛人であったことを思い出したのか。リーザの前で複雑な声になった。仮面の下の素顔まではわかりはしないが。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ