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スペードの女王
第一幕その八
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「その全ては」
「それこそが貴女なのです」
 またリーザを見据えた。
「貴女は僕の全てなのですから」
「リーザ」
 ゲルマンは歩み寄ろうとする。だがここで伯爵夫人の声がした。
「いるの、リーザ」
「御婆様」
「スペードの女王」
 ゲルマンはその声を聞いて呟いた。
「彼女が今扉の向こうに」
「いたら返事をしなさい。そこを開けて」
「はい、只今」
 それに応えながらゲルマンに顔を向ける。咄嗟のことに思い詰めた顔になっていた。
「まずはこちらへ」
「ええ」
「いるの?いないの?」
「います、今行きます」
(早く)
 応えながら小声でゲルマンを急かす。
(あそこへ)
 そう言ってカーテンの中に隠した。ピンクの、やはりフランスから持って来たカーテンである。何処までもフランス風であった。
 ゲルマンを隠した後扉を開ける。そして祖母を部屋に迎え入れた。
「すいません」
「どうしたのですか、いるならいると」
「うとうととしていまして」
「それならよいですが。それなら」
「はい」
「バルコニーは閉めておきなさい」
「あっ」
 言われてはっとした。あまりのことにそんなことすら忘れてしまっていた。バルコニーが開いていなければそもそもゲルマンも入っては来ないからだ。彼女は忘れていた。
「いいですね」
「わかりました」
「それでは。お休みなさい」
「お休みなさい」
 挨拶の後で伯爵夫人は部屋を後にした。リーザはそれを見送ってから扉を閉めた。そしてカーテンの奥に隠れているゲルマンの方に顔を向けた。
「もういいですよ」
「ええ」
(伯爵夫人、また)
 ゲルマンは扉の方を見ていた。そしてあの伯爵夫人をそこに見ていたのである。
(三つのカードの秘密。それさえわかれば)
「それで」
「はい」
 カードの考えは中断した。そしてゲルマンはリーザに顔を戻した。
「さっきのお話ですけれど」
「ええ」
「私に何をお望みなのですか?」
 俯き加減に問う。
「私に出来ることは」
「僕の運命です」
 彼はそこにはリーザを見ていた。だが同時に三枚のカード、即ち伯爵夫人も見ていた。もう何を見ているのは自分でもわからなくなっていようとしていたがそれは彼にも気付いてはいなかった。
「貴方の運命」
「はい、そうです」
 彼は答える。
「僕の運命なのです」
「それは・・・・・・」
 だがリーザはそれを言えなかった。心では違っていたが彼女は貞節をまだ重んじたかった。堕天使を前にしてそれは儚いものであったが。
「僕は貴女がなければ」
「その先は言わないで下さい」
「では」
「・・・・・・・・・」
 言葉が出ない。だがそれはほんの一瞬のことでしかなかった。リーザも遂に折れた。そして口を開いた。
「私
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