第百二十話 出雲の阿国その一
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第百二十話 出雲の阿国
幸村は信玄に言われ都に来ていた、彼はその都の中を己の足で見回りながらそのうえで周りにいる十勇士に言った。
「少し前まで随分と荒れていたというがのう」
「もうその名残はありませんな」
筧が幸村に答える。家も店も多く人も行き交っている。
「いや、これはかなり」
「栄えておるのう」
「派手な身なりの者もいますな」
猿飛が前にいる赤や紫の奇矯な服の者達を見て言った。
「あれは一体」
「傾奇者じゃな」
幸村はその猿飛に答える。
「それじゃ」
「あれが噂のですか」
「そうじゃ、傾奇者じゃ」
まさにそれだというのだ。
「面白い格好じゃな」
「甲斐や信濃にはいませんな、ああした格好の者は」
猿飛はいぶかしみながら言った。
「いや、はじめて見ましたが」
「好きになれぬか」
「それがしの趣味ではありませんな」
こう幸村に言うのだった。
「どうにも」
「ふむ、そうか」
「はい、やはりそれがしは赤は赤でも奇矯ではなく動きにくい服がよいです」
「動きにくそうな身なりの者もおるのう」
「ああした格好ではいざという時動けませぬ」
だからだというのだ。
「それがしは好きになれませぬ」
「わしはそこまで思わぬがな」
幸村は笑って猿飛に返した。その彼に今度は穴山が言ってきた。
「それで殿、この度の上洛ですが」
「御館様と親しい公卿の方への届けものじゃな」
「それはあっさりと済みましたな」
「そうじゃな。お届けして終わりじゃった」
「ではここは、ですな」
「うむ、都を見て回ろう」
ただ見回る、見物するだけではなかった、そこにあるものは。
「そして織田信長の政を見よう」
「これまでは見事なものでした」
海野が言う。
「岐阜も近江も」
「そうじゃな。見事じゃッた」
「町も田畑もよく整っています」
「織田殿は政も立派じゃな」
「そうですな。そしてこの都も」
「よいな」
見事な町並みだというのだ。
「瞬く間にここまで栄えさせるとはのう
「織田信長、出来物ですな」
由利もそれを言う。
「噂以上やも知れませぬな」
「そうじゃな。しかし都の味噌はのう」
幸村は苦笑いも見せた。
「よくはないのう」
「口に合いませぬな、どうも」
「あの味噌は」
十勇士もそれはと言う。
「妙に甘ったるく」
「味が弱いです」
「都の味自体が」
三好清海はその味自体が駄目だった。
「どうにも」
「ううむ、国によって料理の味も違うか」
幸村は首を捻って微妙な顔になった。
「しかしそれでも都の料理は水っぽいのう」
「味がありませぬな」
三好伊佐も言う。
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